《 小商い賃貸推進プロジェクト 》Vol.002

あなたは“しっかりナリワイ”派? “weekendナリワイ”派? それとも“ちょこっとナリワイ”派? 自分らしい暮らしと小商いのバランスを楽しむ小商いスペース併設型賃貸住宅「vita passo 楓の樹」

投稿日:2023年2月23日 更新日:

[小商い建築ウォーカー神永セレクト#001]

読者の皆様、こんにちは。このたび「小商い賃貸推進プロジェクト」担当となりました神永侑子です。
私は横浜の弘明寺商店街で、アキナイガーデンというシェアショップを運営し、住居と店舗が隣り合う”商い暮らし”を実践して日々を楽しむ建築家です。
2022年4月に『小商い建築、まちを動かす!』を共著で出版させていただき、日本全国のあらゆる事例から、職住一体型建築がその機能的役割を超えて新たな生活文化の発生や、地域とのつながりを生み出していく可能性を見ました。何より、その場所に住む入居者らが生き生きとしていて、自分たちの活動に誇りと熱意を持ち取り組んでいるのが印象的でした。
この「小商い賃貸推進プロジェクト」では、本でも紹介しきれなかったあらゆる小商い賃貸をピックアップし、時に入居者にも話を聞きながらライフスタイルとともに紹介していけたらと思っています。

「神永セレクト#001」としてご紹介するのは、練馬駅から徒歩10分ほどの住宅地に誕生した「vita passo楓の樹」(※以降「楓の樹」)という物件です。
築35年のRC造賃貸マンションを、全室小商いスペース併設型の住戸にリノベーションし、2022年7月にリニューアルオープンしました。
周辺環境はいわゆる駅前にお店が並ぶ商業エリアではなく、住宅が立ち並ぶ生活のエリア。道路の向かいには小学校があることもあり、住宅地の中では開放的な明るい印象を持っています。
決して商売のしやすい立地とは言えないこの場所で、小商いにチャレンジしたい、また興味を持つプレイヤーがどんどん入居希望の手を挙げているというのです。
建物の特徴は何といっても、小商いスペースとしてお客さんの入口へと化した、元プライベートバルコニーの変貌ぶり! 手すり壁だった部分は見通しの良い手すりへ更新され、地上から3階までをゆるやかに繋ぐ大きな階段が設置されています。赤い色をしていてチャーミング。バルコニーにあった室外機は玄関扉側へ移動され、インターホンはバルコニー側に。ものの見事に“入口”の概念が反転されています。バルコニーから人を招くことのできる部屋とは、一体どんな間取りなのでしょう。そのほかにも、見どころ盛りだくさんのこの物件。じっくり紹介していきたいと思います。

玄関側に移動された室外機と、バルコニー側に移動されたインターホン。

Contents

1.各階ごとに異なる、小商いスペースの広さや間取り、暮らし方

❶1階の”しっかりナリワイ”部屋

❷2階の”weekendナリワイ”部屋

❸3階の”ちょこっとナリワイ”部屋

2.「ナリ間ノワプロジェクト」が展開する、地域に根付いたナリワイ暮らし

1.各階ごとに異なる、小商いスペースの広さと間取り、暮らし方

12室ある各住戸の専有面積はそれぞれ約50㎡で、家賃は14〜15万円台。この家賃で、生活するための住居と自分自身のお店を構えられるだとしたら、夢が膨らまない訳がありません。住戸内に設けられた小商いスペースの広さや形状は、1階、2階、3階でそれぞれ異なります。
1階は“しっかりナリワイ”、2階は“weekendナリワイ ”、3階は”ちょこっとナリワイ”と名付けられた間取りで、上階に行くほど店舗の空間がコンパクトに。店舗として地域に顔を出しやすい1階から、暮らしに比重を置きながらも地域との関わりしろを持った3階まで、自分が理想とする“ナリワイ×暮らし”のバランスを考慮し、選ぶことができるのです。
内装は店舗の空間はもちろんのこと、暮らしの空間もDIY可能となっており、事前に内容を協議し手を入れ、退去時には基本原状復帰が求められます。


❶1階の“しっかりナリワイ”部屋

“しっかりナリワイ”間取りの俯瞰スケッチ。バルコニー側に店舗の空間が広がる。 イラスト:イスナデザイン

写真手前の店舗の空間から、暮らしの空間を見た様子。 内装はコンクリートと合板で仕上げられた、スケルトンのようなタフでおしゃれな印象。

写真手前の暮らしの空間から、バルコニー側に向かって開放的な店舗の空間を見た様子。

1階の”しっかりナリワイ”は、これからお店を始めようとする人におすすめです。
間取りのうち、バルコニー側約1/5のスペースが店舗の空間として利用可能で、新しい店舗を借りずとも、住居と隣り合う空間でお店をオープンさせることが可能です。
店舗の空間は、飲食店や菓子工房など、あらゆる業態に対応できるようシミュレーションを重ね、給排水や電気等のインフラを繋ぎ込む用意は済ませてあるとのこと。そして、飲食類を提供するための保健所の営業許可取得に必要なトイレは、住戸内のものを使用すればよく、それが気になる方は、お隣の姉妹物件「欅の音terrace」(※後述します)にある共用トイレを使用することで許可が下りるようになっているのだそう。トイレを新規で設置する必要はないため、初期費用を抑えられることはとても嬉しいポイントです。

お隣、徒歩30秒の「欅の音terrace」共有スペース、Do space。正面の扉がトイレ。

このトイレを利用できるのであれば安心ですね。

暮らしの空間と一体的だと聞くと、プライバシーの確保が気になりますが、自分に合ったナリワイ暮らしに合わせて間仕切ることも可能です。暮らしの空間には、ゆったりとソファを置けるリビングスペースと、寝室にぴったりな個室もあります。店舗営業で使う可能性もあるため、トイレはシャワーや洗面所と分かれた独立型です(間取り俯瞰スケッチ参照)。

取材の日は休日で、1階のお店ではビストロがオープンしていました。

実際に1階に入居されている飲食店indigoさんを覗いてみました。
ご覧の通り、大きなカウンターテーブルを特徴とした客席に、厨房機能を持った本格的なお店に仕上がっています。写真右手の壁の奥が暮らしの空間になっていて、綺麗に間仕切られているのが見て取れます。このお店は、平日はクレープ屋さん、週末は親子でビストロとしてオープンしているそうです。既に近所のお客さんで賑わいを見せており、楓の樹への入居をきっかけに、地域に愛されるお店に育っていくのだろうなと感じました。


❷2階の“weekendナリワイ”部屋

“weekendナリワイ”間取りの俯瞰スケッチ。 イラスト:イスナデザイン

店舗の空間の床は土間仕上げ。写真右側には暮らしの空間であるリビングやキッチンが広がる。

2階の“weekendナリワイ”は、1階よりも店舗の空間がコンパクトな間取りです。
平日はメインの仕事をしながら、週末に自分の好きなナリワイにチャレンジしたい人にぴったり。店舗の空間の床は土足可能な土間仕上げで、部屋の1/10程の面積。暮らしの空間が広くとられているため、DINKSや家族での入居もイメージが付きやすい広さです。
お気に入りの雑貨を販売したり、ドリンクスタンドを開いたり、本格的なお店を始める前に、小さく始めたい方におすすめしたい部屋。
この日は、自家焙煎のコーヒー豆を販売するerylife-coffeeさんにお邪魔しました。
元々オンラインのみで販売を行っていて、今回実店舗を構える形になったのだそう。販売するコーヒー豆の陳列棚で、暮らしの空間と上手に間仕切って営業されています。丁寧にセレクトされた家具やインテリアで、人柄を表す素敵な空間に仕上がっていました。基本土日営業しているそうなので、是非一度足を運んでみてください。”weekendナリワイ”暮らしの楽しみ方を垣間見ることができますよ。

自家焙煎のコーヒー豆を販売するerylife-coffeeさん。 写真右手の陳列棚の奥に、リビング空間が広がっています。

バルコニー側のサッシはお店の入り口に。


❸3階の“ちょこっとナリワイ”部屋

“ちょこっとナリワイ”間取りの俯瞰スケッチ。バルコニー側にインナーテラスがある部屋も。 イラスト:イスナデザイン

働くイメージも付きやすい、アトリエのような暮らしの空間。

続いて3階の”ちょこっとナリワイ”部屋を紹介します。
3階は、1、2階と異なり暮らしの空間がメインですが、仕事や特技をきっかけに、自分の暮らしと地域に接点をつくりたい人におすすめしたい部屋。たとえば、住みながら働いてSOHO利用する場合でも、コンクリートの質感や土間仕上げの床といった素材感から、人を招いた打ち合わせもイメージしやすい内装です。もしくは、アクセサリーや雑貨を製作するアトリエとして利用し、週末は展示販売を行うことも想像できますね。

自宅で仕事をしながら、”暮らし開き”を楽しむ小田さんを訪ねました。

3階の共用廊下を歩いていたら、ここで暮らす小田さんが声を掛けてくださいました。小田さんは、これまでも都内の自宅で仕事をしてきたそうですが、コミュニケーションを取る機会が少なく、暮らしがマンネリ化していたことに違和感を覚えました。地域的なつながりを求めて物件を探していたところ楓の樹の募集情報を発見、面談を経て入居が決まりました。最近は、1階の飲食店indigoさんで食事と会話を楽しんだり、早くも近隣コミュニティを満喫しているんだとか。
コンクリートやモルタルを基調とした内装も気に入っており、DIYや家具選びなど、部屋づくりも進めているそうです。この日も当たり前のように部屋に招いてくださり、人の往来の多いこの場所での“開かれた暮らし”の豊かさをたくさん語ってくれました。

2.「ナリ間ノワ」プロジェクトが展開する、地域に根付いたナリワイ暮らし

「ナリ間ノワ プロジェクト」のビジョンスケッチ。 イラスト:イスナデザイン

楓の樹のお隣、欅の音terrace。

楓の樹は、練馬桜台で展開する、ナリワイと暮らしを両立する「ナリ間ノワ プロジェクト」の第二弾物件。第一弾は、2018年に誕生した「欅の音terrace」という、築38年のアパートをフルリノベーションした物件で、楓の樹に隣接しています。”しっかりナリワイ”と”ちょこっとナリワイ”の部屋があり、ナリワイ暮らしの先輩方が入居しています。

2022年12月に開催された、クリスマスマルシェの様子。

定期的に開催される予定の2物件合同のマルシェは、入居者さん同士で自主的に企画開催したり、オーナーさん主催で開催されるものがあるとのこと。物件入居にあたっては、マルシェへの参加が条件だそうで、飲食店や物販、自分のコレクションの展示等、入居者それぞれのお店の“開き方”を、同じライフスタイルを選択するご近所メンバーと一緒に、地域を巻き込みながら楽しむ機会になっています。

「シェアリングキッチン ナリ間ノ竈」外観。

「キッチンシェアリング ナリ間ノ竈」内観。充実した調理設備が完備されている。

そしてもう一箇所、「キッチンシェアリング ナリ間ノ竈」というシェアキッチンが徒歩1分圏内にあるのも魅力的なポイント。菓子製造業のほか、惣菜製造業、飲食店営業の許可を取得しており、この場所で製造したものを、楓の樹や「欅の音terrace」で販売するということも可能なのです。
お店を始めようと思った時、何と言っても大きなハードルになるのが店舗や工房への内装や設備の投資です。「ナリ間ノワプロジェクト」では、エリア内に点在する不動産を利用し、機能をリノベーションしながら、ナリワイを暮らしに溶け込ませたライフスタイルを展開しています。
小さなチャレンジに伴うハードルを最小限にし、地域に根付きながら無理なく始めることができるしくみが、練馬桜台で小商いをし、暮らすことを選ぶ大きな理由となるでしょう。家族や仕事の仲間との大切な時間に加えて、さらに自分の住まいの近所にたわいもない話ができる友人がつくれるとしたら。物を売るだけではない、自分が考える“小商い”を実践する舞台として、最高の物件であること間違いなしです!

1階平面図

2階平面図

3階平面図

文:神永侑子

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神永 侑子

建築家。 AKINAI GARDEN STUDIO 共同代表。1990年茨城県生まれ。2012年愛知工業大学卒業。同年から2020年株式会社オンデザインパートナーズ勤務。2021年から2023年までYADOKARI株式会社勤務。2018年、横浜弘明寺にシェア店舗アキナイガーデンの開業と共にAKINAI GARDEN STUDIO設立。建築設計をメインとして企画から運営まで一貫した活動に取り組む。主なPJに、「洞窟のある家」(2021年)、共創型コリビング「TAMUROBA」(2022年)等。共同編著書に「小商い建築、まちを動かす!」(2022年)。

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