つくったお菓子を直接売りたい
空き待ち登録をするとき、どんなお菓子をつくっていて、どのような菓子工房を持ちたいか、具体的に書いてくださる方がとても多く、いつも嬉しく拝読しています。
その中には、自前の菓子工房を持つだけでなく、小さくてもいいから店舗スペースを設けて、つくったお菓子をお客様に直接売りたいという理想を掲げている方がたくさんおられます。
どうかその理想、夢を実現していただきたいと願わずにはおれませんが、しかし現実的にはどうだろうか?と考え込んでしまうことがしばしばあります。
それは、菓子工房に店舗スペースを設けようとすると、自前の菓子工房をつくるためのハードルがさらに上がってしまうからです。
ハードルが上がることを理解していて、夢を抱いておられるのであれば、何も言うことはありませんが、そうではなさそうだなと感じさせられる方も少なくないので、今回は、店舗スペースを設けるときに上がってしまうハードルについて、お伝えしたいと思います。
店舗スペースを持つためのハードル
菓子工房に店舗スペースを設けようとすると、自前の菓子工房をつくるために上がってしまうハードルとはどのようなものか、この場では3点に絞ってお伝えしたいと思います。
1点目は、保健所の営業許可を得るための難易度が上がることです。
保健所の営業許可を取得するためには、お客様が出入りする販売スペースと菓子製造スペースとは、壁と扉で明確に区分しなければなりません。
すでに販売スペースと店舗スペースが別にある物件ならいいけれど、そうでなければ壁と扉を設置する工事が発生します。
それだけでもかなりの工事費用がかかりますが、照明やエアコンなども別に必要となるので、100万円ほどは余計にかかると覚悟したほうがいいように思います。
そして、工事項目が増えると、大家さん、管理会社の工事許可が得づらくなることにもご留意ください。
2点目は、集客が見込まれる立地が必要となるので、家賃が高くなることです。
駅の近くや商店街の中などでないと、せっかくお店を構えていてもお客様は来店してくださいませんが、そういうエリアは家賃も当然高くなります。
その高くなった家賃分を売上でカバーできるかどうか、よく考えていただきたいと思います。
家賃の高さから逃れて、住宅街にある物件を選ぼうとする方もおられますが、住宅街は店舗ができない用途地域であることもありますので、この点もしっかり調べる必要があります。
3点目は、マンパワーの課題が生じることです。
お客様はいつ来店されるかわかりませんから、いついらっしゃっても対応できるよう構えておく必要があります。
お菓子づくりに忙殺されていても、お客様が不意に来店されたら、手を休めて接客しなければなりません。
お客様の中にはおしゃべりを楽しみに来られる方も少なくないでしょうから、接客にはそれなりに時間がかかるものだと私は思っています。
結果、お菓子づくりと接客が両立できなくなるという可能性もあり、その対策として販売のためのアルバイトさんを雇うことになるかもしれません。そうなれば当然人件費がかかるし、スタッフのマネジメントにも労力がとられます。
読者の皆様がやろうとしていることは「経営」ですから、この点はしっかり見極めなければなりません。
店舗の代替案
店舗スペースを設ける場合の課題を3点に絞ってお伝えしましたが、店舗スペースを構えなくても目的を果たす方法が、ほかにもあるのではないかと私は思っています。
今回は代替案を2つお伝えします。
代替案の1つめは、商品の受け渡しだけ予約制にして行うことです。
お客様と接する時間は限られますが、つくったお菓子を売る喜びを少しは味わえるはず。
そしてこの方法であれば、集客が見込める立地でなくても大丈夫なことが多いというのも利点です。
2つめは、カフェやレストランに自分のつくったお菓子を置いてもらって、売っていただくことです。
お菓子を置いていただくお店に当然マージンを支払わなければなりませんが、自分のつくるお菓子を知ってもらい、生の声を聞く機会にはなり得ます。
店舗を持ちたいという夢や目標は大切だけれど、現実をしっかりふまえておかないと、かえって身動きが取れなくなることがあります。
現時点では店舗を持つことが難しい段階にある人が、店舗もできる菓子工房を探そうとするのは、時間と労力を無駄にしてしまう可能性が高いです。
一気に夢を実現させたい気持ちを抑え、一歩一歩、着実に進んでいくことも大切だと思いますので、まずは実情をよく理解するところから始めてみてください。
文:久保田大介