《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.036

「アトリエ賃貸推進プロジェクト」でご紹介したアトリエ賃貸物件のその後(2024年8月時点)

投稿日:2024年8月15日 更新日:

ご紹介したアトリエ賃貸物件のその後

2021年3月に配信開始した「アトリエ賃貸推進プロジェクト」では、これまで12件のアトリエ賃貸物件を紹介してきました(シェアアトリエは除く)。
12件の中には記事を読んで内見希望くださった方で成約した物件もあれば、現在はアトリエ以外の用途として利用されている物件もあります。また残念ながら現況がわからなくなってしまったものもあります。
いずれの物件にも「空き待ち」してくださる方が続いており、登録受付のお返事を送る都度、現在の状況をご報告していますが、今回は2024年8月時点での状況をまとめてご報告したいと思います。
また、12件のアトリエ賃貸物件の反響などから、アトリエ賃貸をつくり続けていくために、私自身が皆様から学ばせてもらったこともお伝えします。

使われていない倉庫や空き部屋をアトリエなどに利用できる赤羽のマンション

Vol.025で紹介した赤羽の物件

はじめはVol.025で紹介した赤羽のマンションから。
こちらの物件は、居住用の空室(間取りは3DK)を借りると、アトリエとして利用できる倉庫、作品保管スペースにできる空き部屋を無償で提供いただける特典がついてくる物件です(ご紹介当時、居住用の空室は2室ありました)。
倉庫等は工場の敷地内にあるため、音出しを伴う作業もある程度認められていることから人気を集め、多くの方々がご内見くださり、最終的にメディアアーティストさんとデザイナーさんが借りられました。

倉庫だったところはアトリエになった

倉庫スペースは金工・木工・デジタルファブリケーションが複合した多目的なアトリエとなっていて、メディアアーティストさんとデザイナーさんが一緒に使っています。

地下はDJイベント・サウンドアートを始めとした様々な実験が出来るスタジオとして活用されている

記事配信後、倉庫の地下にあった空間も工夫次第で利用できることがわかり、音や光の伴うさまざまな実験ができるスタジオになっているほか、アトリエスペースと合わせて展示・イベントなどを開催しておられます。

物置きとなっていた空き部屋はギャラリーになった

不要となった荷物がランダムに置かれていた空き部屋は、デザイナーさんがアートギャラリーにセルフリノベーションされました。
壁面には「うま~くヌレール」という漆喰が塗られていますが、この作業にはオーナーさんも加わってくれました。
アートギャラリーはまだ完成していませんが、個展を開催したという実績をつくりたい美術作家さんのために貸し出すことが計画されています。

新たにご提供いただけることになった倉庫

驚いたのは、アトリエとなった倉庫の隣にあった倉庫もオーナーさんが提供してくださることになったことです。
そして、この倉庫スペースの地下にも空間があり、空き待ち登録くださった方のなかで、コンテンポラリーダンスのカンパニーをつくる計画をしている女性4人組にお声がけし、メンバーに加わっていただきました。
4人は新たに空いた3DKの部屋を2室借りてくださり、そこでルームシェアをしながら、新たに提供いただいた倉庫スペースの地下を使って制作活動を始めておられます。
新しい倉庫スペースをどう活用していくか、メディアアーティストさん、デザイナーさん、ダンス・カンパニーのメンバーの皆さんで検討いただいています。

アトリエスペースの有効利用について協議

アトリエやギャラリースペースは、先に入られた3組の方に運営をお任せしていますが、今後、居室に空きが出たとき、そこを借りてくださるアーティストが共同利用できるようにしてほしいとお願いしています。
共同利用のメンバーに加わってみたい方は、アトリエやギャラリーで行われるアートイベントに参加して、先に利用されている作家さんたちに会い、話を聞いていただきたいです。

美術作家の大家さんがつくった駒込のアトリエ賃貸アパート

芙蓉荘2室目のリノベーション工事中の風景

つづいてはVol.006Vol.014Vol.024の3回にわたり紹介した「芙蓉荘」です。
「芙蓉荘」のオーナーさんは美術作家で、若い作家さんたちが制作しながら暮らしやすい環境を考え、さまざまな工夫を盛り込みアトリエ賃貸にリノベーションされました。
はじめは2階の1室を施工されましたが、その後、隣の部屋が空いた際も同様のリノベーションをしてくださいました。
現在は2室とも若手作家さんのアトリエ兼住居として稼働中です。
「芙蓉荘」はほかの部屋が空いたら同様のリノベーションをする計画があり、全室が作家さんのアトリエとなっていく可能性があります。

クリエイターのためにつくられたアトリエ長屋

「クリエイターズ五軒長屋」の1階アトリエ

Vol.018でご紹介した「クリエイターズ五軒長屋」は、1階がアトリエ、2階が住居となっている長屋形式の家が5棟連なるアトリエ賃貸です。
こちらは200Vのコンセントがあることなどから陶芸家の方を中心に人気を集め、解約後、空き待ち登録くださっっていた方で決まったケースが2度ありました。
現在、オーナーさんは東京R不動産に募集を依頼しておられ、「ワクワク賃貸」では空き情報がわからないので、東京R不動産のサイトをこまめにチェックしていただければと思います。

アトリエ以外の用途で使われている物件

キャンバスハウス1号棟のアトリエスペース

アトリエ賃貸としてご紹介したのち、アトリエ以外の用途で借りられた物件も多数あります。
次に空いたら、アトリエ賃貸としてもまた募集をしますので、あらためてご紹介します。

ひとつめは私どもで企画協力させていただいたアトリエ賃貸「キャンバスハウス」。
こちらはVol.003の記事で企画内容を公表したあと「ワクワク賃貸物件集」Vol.040で完成した姿をご紹介しました。
その後、同じオーナーさんが2連棟式の2号物件もつくってくださり、どちらもすぐに満室となりましたが、借主さんはいずれも美術作家さんではありませんでした。
3室ともまだ一度も空くことなく、お住まいいただいています。

古民家カフェ兼住居となった「O邸」

Vol.006で紹介した「O邸」は、現在はカフェ兼住居となっています。
「小商い賃貸推進プロジェクト」Vol.009で現況をご紹介したほか、作家の三浦展さんが『昭和の空き家に住みたい!』というご著書で取り上げてくださいました。この本では、はじめに紹介した赤羽のマンションも取り上げられているので、ご関心のある方は是非ご購読ください。

海の見えるアトリエとして紹介した伊豆の物件

「海の見えるアトリエ」としてVol.013の記事で紹介した物件は、2室ありましたが、現在はどちらもSOHOとして使われています。
コロナ禍でリモートワークが推奨された時期に企画されたため、SOHOとして使いたいという方が50人以上も現れ、大変な人気物件となりました。
アトリエとして使いたいという方も数人おられましたが、SOHO利用を希望された方たちのスピードが勝りました。

はなれがついた根岸の戸建て

そのほか、はなれをアトリエや美術教室に使える物件としてVol.015の記事でご紹介した根岸の物件も、普通に住居として使われています。
大型の戸建てをシェアし、制作活動をしながらともに暮らすことを希望される作家さんは少なからずいるはずと思い、ご紹介しましたが、反響はいまひとつでした。
シェアメイトを探すのは簡単ではないようで、またシェアして活動したい方もさほど多くはないのかなという印象を持っています。

空き家アトリエプロジェクト第一号案件

「空き家アトリエプロジェクト」の第一号案件となった「弥生荘」

Vol.034で「空き家アトリエプロジェクト」第一号案件として紹介した「弥生荘」も、残念ながらアトリエとして内見を希望された方はひとりもいらっしゃいませんでした。
企画協力くださった池袋モンパルナス回遊美術館さんに美術作家さんへのヒアリングをお願いしたところ、「若手のアーティストさんをターゲットにした場合、ほとんどがお金に余裕がない中で活動していると思うので、物件が素敵で価格設定も一般的には安いのだとしても、その人たちにとっては“物件自体は魅力的だけど、高くて手が出ない”というのもありそう」とのご意見をいただきました。
「池袋」駅から徒歩16分、東武東上線「北池袋」駅から徒歩9分という立地で、約70㎡の戸建てが10万円で借りられること、DIY可能で汚しても原状回復義務なしというのは魅力的だと考えましたが、10万円の家賃を出すのは厳しいというご意見です。
しかし、賃貸するにはそれなりのリスクを伴うので、お家賃を抑えると、そのリスクに見合いません。豊島区のような都心で空き家アトリエプロジェクトを継続するのは難しいのだなと実感しました。

空き待ち登録を止めている物件

元薬局店舗をアトリエとして募集した松戸の物件

空き待ち登録の受付を現在ストップしている物件も3件あります。

Vol.028で紹介した松戸の物件は、天井高が3mあり、広さも約50㎡ある元・薬局スペースをアトリエとして使えるというものでした。
アトリエとして魅力があったためか、多くの内見希望をいただきましたが、オーナー一家はこのスペースで老猫を飼育されていて、その老猫が元気でいる間は人に貸さないでほしいという家族の希望があり、現在は保留となっています。
そのため、現在は新しい空き待ち登録の受付を止めております。

59坪の倉庫をアトリエとして使える一宮の物件

Vol.020で紹介した一宮の物件は、約59坪ある倉庫をアトリエとして利用でき、大きな母屋で暮らしながら制作活動ができる物件で、海のすぐそばであることから借りたい方がおられるのではないかと期待しましたが、反響はなくオーナーさんが売却され募集をストップいたしました(ストップされたあとに反響が少しありましたが、間に合いませんでした)。その後、買われた方がどのようにされているのか、編集部ではわからないため、空き待ち登録の受付を止めております。

登り窯もある古河市の物件

Vol.027でご紹介した茨城県古河市の物件は、約1,390坪もある敷地内に母屋や離れがあり、登り窯まであるというスケールの大きな物件でしたが、陶芸家さんが1人内見くださったほかは反響もなく、現在、オーナーさんは方針を再検討されています。
そのため、空き待ち登録の受付も止めています。
仕事をしながら制作活動をしている方が多いので、都心への通勤時間が長くなる物件は「ワクワク賃貸」でご紹介しても難しいようです。

新築アトリエ賃貸「earthmore」

2024年2月末に完成したアトリエ賃貸アパートメント「earthmore」

今年(2024年)2月末に完成した「earthmore」は完成前に全室申込みをいただけ、おかげさまで満室稼働中です。
私自身、たくさんの作家さんをご案内し、そのときの会話を通して新たなアトリエ賃貸をつくっていくうえで多くの気づきをいただけました。
気づきにはプラス面だけでなくマイナス面もあり、今後アトリエ賃貸をつくっていくうえで、大きな財産となりました。
なお「earthmore」の空き待ち登録は現在受付を止めております。空き情報を必要とされる方はオーナーさん(株式会社アースモア)が運営しているサイトに直接お訊ねください。

今後のアトリエ賃貸企画方針

アトリエ兼住居として使われている「芙蓉荘」の1室

アトリエ賃貸を増やす活動を始めて3年が経ちましたが、取り組み続けるにつれ、アトリエ賃貸づくりは予想していたよりはるかに難しいと思うようになりました。
アトリエ賃貸は「音」、「天井高」、「床の強度」、「立地」などの問題に加え、住まいとセットにすることの是非など、実に多くの課題を抱えています。
これらの課題をクリアするためにはコストがかかり、それを回収するために賃料は自ずと高くなりがちですが、作家さんたちがアトリエにかけられる賃料は総じて低く、なかなかマッチしません。
こうした点を考慮し、今後は次の2つをモデルケースとして企画をしていきたいと考えています。
ひとつめはVol.025で紹介した赤羽のマンションのように、共同で使えるアトリエがあって、周辺にある賃貸住居をご提供する方式。
ふたつめはVol.018のような戸建て形式の物件を新築する方式です。
いずれの場合も、アトリエとして魅力があることが大切で、そこにはこだわって企画をしていきたいと思っています。

赤羽の物件で新たに提供いただけた倉庫スペースの地下空間

文:久保田大介

  • この記事を書いた人

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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