ここ数年、入居者さんがDIYで部屋を改装することができる賃貸住宅が増えてきている。
指定された壁一面であれば上からクロスを貼ったり、ペンキを塗ったり、棚をつけたりしてもよい物件が目立つようになってきたし、もっと大胆にリノベーション級のDIYをしてもよい物件を紹介してくれるDIYPというサイトもかなりの人気だ。
誰も住まず放置されている空き家が多いことは社会問題になっているが、国土交通省は借主がDIYでリフォームできるようにすることを推奨し、問題の解決を図ろうと積極的に動いている。そのためにトラブルを未然に防ぐべく、DIY型賃貸借に関するガイドブックや契約書書式例までつくっている。
壁にポスターを貼るのに画鋲を刺してもいいかどうか悩むような時代が長く続いたが、様相は確実に変わってきている。
・・・とここで話は大きく変わるが、1970年代、僕が3歳から9歳まで過ごした平屋の賃貸住宅は、考えてみれば、新築で入居したのにもかかわらずDIYし放題の家だった。
引っ越した当初、その家にはまずお風呂がなかった。正確に言うと、風呂場のスペースだけがあり、借主が自分で浴槽とバランス釜を買って設置するのは自由だった。
うちは父の帰りがいつも遅く、銭湯が開いている時間に帰ってこられないから、当然のように自費で風呂場をつくった。
また、庭がけっこう広かったので、父は親戚の大工さんに手伝ってもらって、大きな物置と、縁側をつくった。
下の写真は出来上がった縁側で遊ぶ僕と妹の姿だ。
この平屋の賃貸住宅は50棟以上連なっていて、みんながみんなDIYで造作をしているわけではなかったけれど、中には2階建ての離れをつくってしまった凄腕の家もあった。
そして、我が家が退去するとき、これら造作について原状回復はしなかった。
引っ越し後しばらくしてから、近所の友達を訪ねたとき、この家を見に行ったら、縁側も物置も次の方がそのまま使っているのを見たから確かだろう。
そういえば、先々月(2018年3月)終了したNHK朝の連続テレビ小説『わろてんか』で、主人公の北村てんが大正から戦中まで住んでいた平屋も賃貸だったが、長く住み続けているうちに和室を洋室にするなど、多くのリフォームをしていた。
何が言いたいかというと、昔は賃貸住宅であっても、借主が自分の住みやすいようDIYするのはごく普通のことだったのでは?と思うのである。
このあたりの賃貸住宅史はあらためて調べてみたいと思うが、はじめはDIYが自由であったのに、大家さんと借主との間で原状回復をめぐるトラブルが多発し、勝手にリフォームすることや、造作物を買い取るよう請求することが禁じられ、それが高じて、とうとう借主は画鋲ひとつ打つのもためらわれるようになってしまったのではないだろうか。
そもそも、通常の賃貸借契約書を丁寧に読み込んでいただくとわかるのだが、借主が原状回復をしっかり行えば(あるいは原状回復工事代をちゃんと負担すれば)、DIYで部屋をリフォームしても構わないと読み取ることができる。
また、故意・過失があってクロスを汚してしまっても、国土交通省が定めた原状回復のガイドラインには「入居期間が6年を超えれば、クロス張り替え代は負担せずともよい」と記されているから、6年以上住み続けるつもりであれば、それを楯にとり、原状回復工事代の負担なしでクロスにペンキを塗ったり、張り替えたりできる可能性もある(※クロスの材料費は免除されるが、張り替えの手間賃を請求される場合などがあるので注意は必要)
このことを多くの人は知らない。
これに加えて、最近推奨されているDIY型賃貸住宅は、大家さん、管理会社に事前承認を受けた場合、原状回復を免除しようとしているから、自分で自分の家にペンキを塗ったり、クロスを張り替えたり、棚やタオル掛けなどをつけたり、いやいやもっと大胆なリノベーションをしてみたい人には嬉しい時代がやって来ているのである。
とはいえ、DIYでもやっていいことと悪いことがある。
たとえばキッチンのガステーブルの周りに燃えやすい性質のクロスを貼ったり、棚をつけたりしたら火事を起こしてしまいかねないのでとても危険だ。
要は正しい知識を身につけて、専門家の助言もよく聞いて、大家さん、管理会社にもきちんと承諾を得て取り組むことが大切だ。
しかし、かつては「自分の好みに部屋を飾ったり、間取りを考えたりしたければ、家を買え」と言われたものだが、これからは賃貸住宅でもそれらのことができるようになっていく。
DIYで部屋を改装するだけ改装して、やり尽くしたら次の賃貸住宅に移っていくDIYジプシーみたいな暮らし方をする人も現れるかもしれない。
そのためには大家さん、管理会社、借主さんがそれぞれ正しい知識を持ち、しっかり手続きを踏むことが常識となることが大切だ。
まずは隗より始めよ。
僕の会社でもきちんと勉強し、大家さんと借主さんに正確な情報をお届けし、楽しくDIYしていただける賃貸住宅をどんどん増やしていきたいと思う。
文責:久保田大介
イラスト:コミック堂