
私は「毎日ワクワク、楽しみながら暮らせる賃貸住宅をつくること、増やしていくこと」を標榜し、「ワクワク賃貸」を運営していますが、「久保田さんが理想としている賃貸物件はどんなものですか?」と訊かれることがたまにあります。
そんなとき私は「コウハウジングです」と答えるのですが、たいがいは「コウハウジングって何ですか?」ときょとんとされてしまいます。
ご存知ない方のために簡単にお伝えしますと、「コウハウジングとは共用で使うリビング棟があって、その周囲に個々の家があり、コミュニティーを形成しながら暮らすというものです」と私はお話ししています(※注:「コウハウジング」の定義として定まったものはないように思います)。
類似のものに「シェアハウス」や「コレクティブハウス」があります。これらについてこまかな説明は省きますが、共用のリビングなどがあって、個々の住まいがあるという点は同じで、シェアハウスやコレクティブハウスはひとつの建物の中で暮らすのに対し、コウハウジングの住まいは別々となっているという点が異なります。
コウハウジングは北欧が発祥と言われていますが、主にアメリカで広まりました。
アメリカは豊かな土地に恵まれているので、ひとつ屋根の下で暮らすのではなく、ひとつのエリアで集落を形成して暮らすという選択肢を取れるのですね。
しかし、私はこの狭い日本でコウハウジングでの暮らしを求めています。だいぶ矛盾していると思われるかもしれませんが、さにあらず。私の理想としているコウハウジングは、豊かな土地に恵まれていなくても、余裕で成立する新しいスタイルなのです。
それはどんなスタイルのコウハウジングなのか、本稿を含めて6回に分けて、お話しさせていただきたいと思います。


私がコウハウジングに惹かれるようになったのは、25年ほど前に主婦の友社から出されていた『老後は仲間と暮らしたい』(早川裕子+GLネット著)という本を読んだことに端を発します。
この本では友人知人が相互に援助しあいながら共同生活を送る“グループリビング”という暮らし方を提唱していて、その事例がいくつも紹介されていました。
「歳をとって独身生活を送っていたら、老人ホームに入るしかない」と多くの人が漠然と考えていたように思いますが、『最後まで自立して仲間と暮らしたい』、『年齢層の違う人との交流があればどんなにいいか』、『何歳になっても自分で決める自由がほしい』など刺激的な見出しのもと、自立した生活を営みつつ、病気になったら互いに助け合い、食事や趣味も一緒に楽しみながら暮らすというライフスタイルがレポートされていて、強く心を惹かれました。
この本を読んだのとほぼ同時期に、NHK朝の連続テレビ小説『ちゅらさん』が放映されていたのですが、国仲涼子さんが演じる主人公の古波蔵恵里が沖縄から上京し暮らし始めた「一風館」が本当に素晴らしく、その暮らしに憧れました。
「一風館」は共用リビングのあるアパートで、そこでは高齢者、若年世代、小さな子どもが暮らしています。
アパートの住人が病気をしたときは、病院に連れて行ったり看病したりし、若い夫婦が子どもの保育園の送り迎えで苦労していたら、みんなで交代してその役割を分担する。不定期に皆で食事をともにし、毎日何とはなしにリビングに集まって、思い思いに過ごす。
女性同士がついつい集まってしまう部屋があり、そこでワインを飲みながらおしゃべりを楽しむ。
このドラマを観ながら、ああ、自分もこんな生活をしてみたいなと強く思いました。
その少しあと、「コレクティブハウスかんかん森」というコレクティブハウスをつくる検討会のような会合があることを知り、何度も参加しました。
その流れで、同じ建物の中で暮らすコレクティブハウスとは別に、コウハウジングという暮らし方があることを知り、以来、四半世紀にわたり、憧れ続けています。

「ワクワク賃貸」を運営していくなかで、「コレクティブハウスの暮らし」という連載をコレクティブハウスで生活している方にお願いしたのも、『老後は仲間と暮らしたい』を読んでから、個々の生活を営みつつ、ともに支え合える人たちが一緒に暮らすライフスタイルに惹かれ続けていたためです。
最近では「小商い賃貸推進プロジェクト」で「田浦月見台」を取材したとき、そこには共用のサウナ棟やクリーニング棟があり、その周辺を個々の家が囲んでいて、「これはコウハウジングそのものだな」と私は思いながら、企画運営会社のお話を伺っていました。企画者さんは「田浦月見台」をコウハウジングと捉えている様子がなかったので、熱く語るのは控えましたが(笑)、ひそかに強いワクワク感を抱いていたのです。
「ああ、だんだんと、自分が理想とする賃貸ライフが近づいてきたな」と実感しましたが、25年もの間、私はコウハウジングについて考え続けてきて、そして自分自身の性格も分析し続けてきたので、一般的なコウハウジングに、自分は合わないことを悟るようになりました。従来語られてきたコウハウジングやシェアハウス、コレクティブハウスはとても魅力的だけれど、私自身には合いません。
私にとって、それらは人と人との距離が近すぎるのです。
ともに支え合う仲間を欲する気持ちは強くあるけれど、近すぎるのはイヤなんですよね。とてもワガママだとは思いますが、でも私みたいな人間は決して少なくない気がします。
そんな人たちにフィットしたコウハウジングの在り方が、私の頭の中にあり、それを実現したいと願っています。
そんな話を6回にわたってお話していきたいと思っています。
文:久保田大介
イラスト:コミック堂