《 世界のワクワク住宅 》Vol.009

土の中のホビットハウス Part II  ホビットハウスをつくる会社 〜フロリダ州キー・ビスケイン(アメリカ)〜

投稿日:2018年8月23日 更新日:

映画『ロード・オブ・ザ・リング』が撮影されたニュージーランドのロケ地では、数多くのホビットハウスが一般公開されているが、どの家も内部には土があるだけで、住居に仕上がってはいない(前回の記事参照)。そこで実際に住めるホビットハウスを探してみると…あった!
誰もがホビットハウスを連想するような住宅が購入できるのだ。今回はこのホビットハウス住宅を製造販売する会社、グリーン・マジック・ホームズ(GMH)をご紹介する。

GMHはアメリカ・フロリダ州を拠点とするが、ホビットハウス建設に使うプレハブ・ユニットその他の生産拠点はアメリカ・インディアナ州、スペイン、メキシコ、アラブ首長国連合の4か所に置き、世界各地からの注文に迅速に対応できる態勢をとっている。現在、50か国以上に営業所があり、販売網も拡大中だ。同社が提供するのはホビットハウス用のユニット各種とフロアプランの作成、技術的な助言など。窓、床、内装全般は、購入者が別の業者から入手しなくてはならない。

自然土で覆ったGMHホビットハウスの特徴とは? 繊維強化ポリマーを使用したプレハブ・ユニットは軽量だが頑丈だ。完全防水で気密性も高いので、冷暖房の効率はきわめて良好、寒冷地でも熱帯でも快適な空間になるという。暴風雨や竜巻などの自然災害にも強いうえ、土に覆われていることでこのホビットハウスは耐火性に優れ、紫外線の影響もほとんど受けない。したがって、劣化が少ないそうだ。

ユニットの組み立てに要する日数は1〜5日間。もちろん、設計から基礎工事を経て内装を整え、土や芝を盛って仕上げるまでには、10週間程度は必要で、ユニットを取り寄せるのに時間のかかることもある。

GMHのホビットハウス・プレハブには、ワンルーム(約39㎡ )から3LDK(約100㎡)までさまざまな種類のユニットがあり、それらを単独で使うことも、結合して使うことも可能。まさに無限の組み合わせが考えられる。ただし、基礎工事の都合上、最初に将来の完成形を決める必要があるとのこと。

ユニットの内部は? 意外と天井が高く、ガラス戸にすることで自然光が差し込み、明るく広々とした感じだ。壁掛け型のエアコンも床暖房も簡単に設置できる。また、プレハブの塗料はすべて健康に悪影響の出ない製品を使用。通常の住宅以外に、オフィスやジムに仕上げることもできる。冷暖房も効率よく使用できるため、光熱費の大幅な減少が期待できるらしい。GMHはホビットハウスのために住宅用小型ソーラーシステムも開発している。

ところで、プレハブ住宅を土で覆う発想はどこから生まれたのだろう? ホビットの映画に着想を得た? それもあるかもしれないが、GMH代表のグスタボ・サンタンデールには違う答えもありそうだ。コロンビア出身のサンタンデールは子どもの頃からの発明マニア。大学で建築デザインを学んだ後に渡米し、建築業界で働くのかと思いきや、作曲家として活動を開始する。事実、彼は一流歌手に250の楽曲を提供し、グラミー賞に何度もエントリーしているプロの作曲家なのである。その一方で、サステイナブル・グリーン建築という目標を掲げてGMHを起業。若い頃から財団を設立し、故国での人道的支援活動など、社会貢献活動への意識の高いサンタンデールにとっては、グリーン建築の追求はごく自然の展開だったのかもしれない。GMHのホビットハウスは環境・エネルギー問題解決という使命を背負った製品なのである。

芝や植物をプレハブ・ユニットにかぶせたGMHのホビットハウスは視覚的に周囲の自然環境になじむだけでなく、短期間の比較的簡単な作業で建てられる建造物なので、通常の建設工事にくらべて環境汚染の心配がない。さらに、エネルギー回収型の空調システムの導入や再生可能エネルギーの活用を前提として設計され、二酸化炭素排出量の削減を目指している。

GMHのプレハブユニットは外観がホビットハウスに似ているだけでなく、自然の中でおだやかに暮らすホビット族のライフスタイルを目指した住宅でもある。環境にやさしく見た目もよいという特徴は一般住宅だけでなく、リゾート地のコテージとしても歓迎される。GMHによると、ウェルネスと名付けたリゾート用新シリーズには最近特に関心が集まっているという。

ホビットの住まいをリアルに体験できる家は、もちろん日本からも注文可能だ。住宅としてあるいは自然の中のセカンドハウスとして、検討する価値はありそうだ。

写真 images: ©Green Magic Homes
出典 source: Green Magic Homes

文責:林 はる芽

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林 はる芽

フリーランスの翻訳家・エディター 日本語・フランス語・英語、時々スペイン語・ドイツ語を翻訳。 最近のおもな訳書にフレデリック・マルテルの3著『超大国アメリカの文化力』(共監訳)(岩波書店2009)『メインストリーム』(同2012)『現地レポート 世界LGBT事情』(同2016)、Kenjiro Tamogami, et.al. Fragments & Whol (Editions L’Improviste 2013) [田母神顯二郎他『記憶と実存』(明治大学 2009)]など。

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