私の会社(PM工房社)は、強い競争力のあるコンセプトを持った物件づくりのコンサルティングと賃貸管理業が柱で、賃貸仲介業はほとんどやっていません。
ところが先日、当社の管理物件に以前住んでおられた方から連絡があり、「今度結婚することになったので、新居探しを手伝ってもらえませんか?」とご相談くださいました。
こちらのことを覚えてくださっているだけでも嬉しいのに、結婚後の家探しを依頼されるなんてとても光栄なこと。喜んでお引き受けしたのですが、残念ながら全くお役に立てませんでした。
探しておられたのは人気エリアのファミリー物件で、ただでさえ競争が激しいところにもってきて、「ネコを飼育できること」、「原付バイクを置けること」という2つの条件があり、なかなか見つからず、やっと見つけたと思ったら、もう入居申込みが入っていて、2番手、3番手になってしまうと言われることもザラ。仲介業を専門としている会社さんには持っている情報量やスピードの面でとても敵わないので、このままではご迷惑をかけてしまうと思い、この仕事は辞退させていただきました。
それからひと月ほどして、お客様が「希望条件をほぼ満たす物件が見つかり、契約できました!」と報告してきてくださり、しばし話し込んだのですが、印象的だったのは「ネコを飼育できる物件より原付バイクを置ける物件のほうが少なく往生した」というお話。
考えてみれば、私が管理している物件でも、原付バイクを置けるものはごくわずかしかありません。
都内では自転車すら置けない物件も多く、小さな駐輪スペースに自転車2台分近く場所を取る原付バイクはなかなか置かしてさしあげることができない。自転車と一緒に駐輪するとエンジンが熱を持っているから危ないとか、原付バイクが倒れて小さな子どもを怪我させたら大変とか、NGとしたい理由はいくらもあるのです。
そんなことがあって、ふと昔のことを思い出したのですが、以前勤務していた管理会社で空室だらけのマンションがあり、それが原付バイク置き場をつくった途端、人気物件になったことがありました。
そのマンションは神奈川県川崎市にあり、最寄り駅から徒歩19分という表示でしたが、実際はマンションまでの道のりが山あり谷ありで、私はいつも25分ぐらいかけて歩いていました。
お部屋は18㎡とやや狭く、三点ユニットバスということもあって人気なし。全部で69室もあったのですが、1/3ぐらい(20室以上)空いていました。
その空室を埋めていくために、テーマを決めて内装をアレンジしたり、入居者さんがシェアできる道具をたくさん置いたりなど、いろいろなことを試みましたが、なかなか埋まらない。
そこでマーケット調査を徹底的に行ったところ、物件から歩いて30分圏内に大学が3つあり、原付バイクで通学したい学生さんがかなりの数いることがわかりました。
駅前など立地の良いマンションには駐輪スペースもさほど取れず、原付バイクなどとても置けない。
ところが、懸案のマンションには広い中庭があり、エントランスを改修すれば中庭まで原付バイクが入っていけるようにできるので、原付バイク専用の駐輪場をつくれる!
オーナーさんにそう提案したら、改修工事代をすぐに出してくださり、「原付バイク専用の駐輪場があるマンション」をキャッチコピーにして募集を再開したら、すぐに満室になったのです。
その後も常時満室をキープできる物件となり、空室対策の悩みからは解放されました。
原付バイクでこれだけの人気になるのなら、大型バイクを保管できるバイクコンテナをいくつも並べたらもっと人気になるのでは?と考え、試したこともありましたが、これは思ったような成果が出ませんでした。原付バイクのほうが所有者が多く、ニーズが強いということなのかもしれません。
原付バイクとは異なりますが、電動自転車を使う方もとても多くなっているので、電動自転車専用置き場をつくってみるのも面白そうです。たとえば駐輪場の片隅に充電器を置ける個別ロッカーを並べたら喜ばれる気がします。電動自転車のバッテリーはけっこう重たいので部屋まで持って帰るのはしんどいし、かと言って電動自転車につけっぱなしにしておいたら、盗難リスクが高いので、ユーザーにとっては悩みの種じゃないかと思うのです。
駐輪スペースひとつとっても、考えるべきことはとても多く、これが賃貸管理の仕事の面白さだと思っています。
文:久保田大介