

「タイニーハウス・フェスティバル2019」で展示されたトレーラーハウス
2019年にタイニーハウス・フェスティバルの取材をしたとき、宿泊施設として製作中のトレーラーハウスを見て、強烈に心を惹かれました。
トレーラーハウスは名前に“ハウス”とついているけれど、実際は“車両”です。車両といっても自身では動けず、自動車に牽引されて移動することができます。
その昔、生活を営みながらアメリカ大陸を横断した幌馬車に起源があると言われていて、当時は馬が引っ張り移動しましたが、現代は自動車が牽引役を務めています。

トレーラーハウスを宿泊施設にするプラン図
タイニーハウス・フェスティバルで紹介されていたトレーラーハウスは、そのあと寝室やキッチン、トイレ、シャワールームなどが設置され、“動く宿泊施設”として沖縄で活躍していると聞いています。
以来、トレーラーハウスと聞くと、“パブロフの犬” のごとく、条件反射的にワクワクするようになってしまった私ですが、先日、埼玉県戸田市で貸宅地の有効活用策としてトレーラーハウスを使った店舗がオープンしたという情報を耳にし、さっそく取材に飛んで行きました。


「戸田公園」駅にあるトダくらし不動産さんの店舗
貸宅地の有効活用策として地主さんにトレーラーハウスの利用を提案したのは、埼玉県戸田市を本拠とする「トダくらし不動産」・代表取締役の河邉政明さん。
河邉さんには、「ワクワク賃貸物件集」Vol.032(憧れの “自宅アトリエ” や “リアル店舗オープン” が実現できる!~セカンドリビングのようなコモンスペース&コモンデッキに地元の人も集う賃貸住宅)で紹介した「はねとくも」をプロデュースされたとき、取材をさせてもらいました。
この「はねとくも」を筆頭に、戸田市を面白い街にすべく、ユニークな物件をつくり続けてきた河邉さんが、今度はトレーラーハウスを使って貸宅地の有効活用を始めたとのこと。
その詳細をインタビューしてまいりましたので、ご一読ください。


トダくらし不動産の河邉政明社長
⎯⎯⎯⎯ 地主さんが所有されている貸宅地にトレーラーハウスを設置するという妙案は、不動産業を営む者にはすぐその面白さがわかるかと思うのですが、不動産業者ではない方たちにもよくわかるよう、簡単にポイントを説明していただけますか?
河邉さん:今回、トレーラーハウスを設置した土地は、元々貸宅地だった土地が返還された場所だったのですが、私の提案を受け入れてくださった地主さんは周辺にも貸宅地を所有していて、いつかそれらが戻ってくる可能性があります。
それまでの間、賃貸用の物件を建ててしまうと、将来、ほかの土地と合わせて開発をすることが難しくなります。
しかし、人通りが多く、店舗に向いたこの土地を月極駐車場やコインパーキングにしてしまったら、戸田の街としてはちょっともったいない。
そこで建物ではなく“車両”であるトレーラーハウスを設置し、店舗として貸し出すことを提案しました。
⎯⎯⎯⎯ とても奇抜な発想だと思いますが、トレーラーハウスを貸すというのは、レンタカーみたいなものになるのですか?
河邉さん:正確に言うと、土地を「トレーラーハウス付き貸地(※編集部注:地主さんが土地を貸す時、建物を建てる目的の場合は「貸宅地」または「借地」といい、駐車場など建物を建てない目的の場合は「貸地」といいます)」として貸しています。トレーラーハウスはスケルトン状態で貸し出し、中の造作はテナントさんがしてくださったので、地主さんの投資額はトレーラーハウス購入とその設置までとすることができ、建物を建てるよりはかなり低く抑えられました。

トレーラーハウスが設置される前の貸宅地
⎯⎯⎯⎯ それは、地主さんも喜ばれたでしょう。でも、河邉さんの妙案をすぐにご理解くださいましたか?
河邉さん:投資額を抑えることができるとはいえ、前例のない有効活用策であったので、はじめに私が地主さんからこの土地を借り、キッチンカーを誘致しました。キッチンカーで商売が成立することがわかれば、理解していただきやすいと思ったのです。
⎯⎯⎯⎯ まずは河邉さん自身がリスクをとって“実験”されたとはすごい! なかなかできることではありません。
河邉さん:そのキッチンカーも営業的には成功し、いよいよトレーラーハウスの設置に動き始めたんですが、やってみたら課題がいっぱいあって、なかなか大変でした。
⎯⎯⎯⎯ 課題と言いますと?
河邉さん:たとえば、トレーラーハウスは車両なので、住居表示というものがありません。だから登記ができないのです。
⎯⎯⎯⎯ なるほど~。車に住所を与えてほしいと言っても、そりゃ駄目ですよね(笑)。だから賃貸の契約も“トレーラーハウス付き貸地”としてすることになったのですね。
河邉さん:そうです。ほかにも適用できる損害保険が限られているとか、建物用のインターネット固定回線を引き込めないとか、普通の建物では当たり前のことが、当たり前にできない難しさがあります。

トレーラーハウスを使った店舗
⎯⎯⎯⎯ 電気やガス、水道などはどうされたのですか?
河邉さん:電気は新設で引き込む工事をしてもらいましたが、これも通常の建物とは違うので、申請から設置まで4ヶ月ぐらいかかりました。
ガスはプロパンガスを使っていて、水道は貸地内に給排水管を新設し、そこからアタッチメントでトレーラーハウスの中に引き込んでいます。

トレーラーハウス内の厨房スペース
⎯⎯⎯⎯ 保健所から飲食業の営業許可はすんなり取れましたか?
河邉さん:ごめんなさい。私自身が申請を行っていないのでよくわからないのですが、珍しい取り組みだったせいもあって、現地調査には保健所のほか戸田市の担当者もいらっしゃったそうです(笑)。
⎯⎯⎯⎯ 「ワクワク賃貸」には「菓子工房賃貸推進プロジェクト」という連載コーナーがありまして、貸地とトレーラーハウスの組み合わせで菓子工房がつくれないものかと思っています。それが可能かどうか、今度、保健所に行って相談してみようと思います。
河邉さん:それも面白そうですね。トレーラーハウスを使って、いろいろな方の夢が実現していったら素晴らしいです。

トレーラーハウスの賃貸用募集図面
⎯⎯⎯⎯ 今回は「天天」さんという天ぷら屋さんが借りてくださいましたが、テナント募集はどうされたのですか?
河邉さん:募集サイトなどで普通に「店舗」として募集しました。
⎯⎯⎯⎯ おおっ、それは意外。トレーラーハウスを店舗として使われているということは、上手に伝わったでしょうか?
河邉さん:「天天」さんは先に現地でトレーラーハウスとウチの募集看板を見て、それからネットで検索して募集サイトの「アットホーム」にたどりついたみたいです。
⎯⎯⎯⎯ トレーラーハウスを見て、店舗の完成形がイメージできた担当者は素晴らしいですね。

「天天」で食事をされる河邉社長
⎯⎯⎯⎯ 今回、貸宅地の有効活用策としてトレーラーハウスの設置が成功されたわけですが、河邉さんは今後もこの組合せを地主さんたちに提案していかれますか?
河邉さん:さあ、それはどうでしょう? 始めたばかりなので、まだ気づいていない課題にあたる可能性が残されていますから、ひとつずつ丁寧に解決にあたっていこうと思っています。それから先のことはまだ考えていません。貸宅地は地主さんの大切な資産ですので、慎重に対応していく必要があると思っています。
⎯⎯⎯⎯ 確かに、ファーストペンギンの役割を果たすには、勇気や度胸も必要ですが、慎重さも欠かせませんね。
河邉さん:今回は、いろいろとリサーチしながら進めていきましたが、ひとつ気付いたことは、トレーラーハウスに関わる仕事をされている方たちに、案外、不動産の知識がないことです。不動産のプロが一緒に取り組むことで、トレーラーハウスの活用策はさらに広がっていくと思っています。

「はねとくも」で開催された「気まマルシェ」の様子
⎯⎯⎯⎯ しかし、「はねとくも」といい、今回のプロジェクトといい、河邉さんのお仕事は本当に面白いですね。その行動力の源は何ですか?
河邉さん:あまり深く考えすぎず、面白いと思ったことはやってみる、ということかと思います。不動産業も同じ仕事ばかりしていたらつまらないじゃないですか。儲かるかどうかはわからないけれど、面白い仕事はやってみたい。そんなことだと思います。
⎯⎯⎯⎯ 不動産業界に河邉さんみたいなプレイヤーが増えていったら、どんどん面白い物件が産まれていきますね。河邉さんにはずっとその先導役を務めていただきたいです。本日はありがとうございました。

文:久保田大介