《 コレクティブハウスの暮らし 》Vol.023

コレクティブハウスでともに暮らす6歳の男の子からトランプを教わる

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トランプの「大富豪」というゲームをご存知でしょうか? 私はやったことがなく、先日同じコレクティブハウスで暮らしている6歳のS君から「一緒にやろう」と誘われたのですが、参加することを躊躇してしまいました。
S君が誘ってくれたのは、コモンミールを食べ、後片付けが終わった後でした。コレクティブハウスの中でも子どもたちを中心にカードゲームやボードゲームを楽しむメンバーがいますが、私はゲームがちょっと苦手なので、あまり参加はしていません。

でもトランプならできるな、と思ったので「いいよ〜やろう!」と、S君のお誘いを受けたのですが、「ババ抜き」など私の知っているトランプゲームではなく、「大富豪」をやろうとS君は言い出しました。私は正直に「大富豪はやったことないから、違うのはどう?」と伝えるとS君は「そうなの?じゃあ違うのにしよう」と言ってくれました。
しかし、一緒にお誘いを受けていた居住者のMさんとTさん(ともに40代女性)から、「ルールは簡単だから、やればわかるよ〜」と言われ、私もこれを機にやってみようかという気になったので、S君にルールを教えて欲しいことを伝えました。するとS君は「えー、でも知らないなら違う方がいいんじゃないかな」と、逆にS君が大富豪をすることを渋ってしまいました。S君には私にルールを教えることが負担だったみたいです。
これはまずいと思った私は、MさんとTさんに教わりながらやるので、S君にも一緒に教えて欲しいことをお願いし、とりあえず基本ルールをMさんに説明してもらいました。S君は私の隣に座り、一緒にルールを確認してくれました。
大富豪をしたことがある方はご存知だと思いますが、このゲームのルールでは、貧困ループからはなかなか抜け出せない構造を学ぶことになります。ゲームの目的は配られた手札を一番早くゼロにすることです。細かなルールにしたがって手札を出していき、一番はじめに手札がなくなった人が大富豪となります。その次から富豪、平民、貧民と落ちていき、最後まで手札が残ってしまった人が大貧民となります。
1回戦ではビギナーズラック! 私が大富豪になり、S君が大貧民になりました。次の2回戦目で大富豪は大貧民から2枚札を交換します。大貧民にとって1番目と2番目に良い手札の2枚と、大富豪にとって不要な2枚を交換するのです。これが貧困ループから抜け出せない仕掛けです。
S君は大貧民になり悔しいのに、さらに次の2回戦目には一番良い手札を私に渡さなくてはならず、「う〜ん、良い札があってもくぼさんにあげないとだめだからなぁ」と残念そうに呟きます。
一方私は「このゲーム、よくないなぁ、大富豪が大貧民から少ない利益を搾取するのと一緒で、気分良くないなぁ、貧困ループはどうやっても止められなくない?」と話すと、TさんもMさんもその考えを口にすることはなかった、と言います。

その後、私のビギナーズラック大富豪はゲームのルールをよくわかっていなかったため、NGな手札の出し方をしてしまい、大富豪から一気に大貧民にランク下げとなりました。ルールを知らない、理解していないと損をする、ということは現実の世界でも共通であることを私はしっかりS君に伝えます。ゲームから現実世界でも活かせる知恵や考えはつけることはできると、私は身をもって感じました。
S君のお母さんも途中からゲームに加わり、これまで家族中心にゲームをしていた時には、どうやって手札を出すかを考えることしかしてなかった、そんな貧困ループや情報弱者的な話なんかしたことなかった、と言います。ゲームを一緒にやる人が違うとゲーム中に話をする内容も違ってくるようです。
その後、革命を起こして大貧民の貧困ループから抜け出すチャンスがあったり、大富豪に君臨し続けるMさんをみんなで倒そうと知恵を出したりもしましたが、S君が寝る時間になったので、Mさんを倒すこともできず、終わることになりました。S君も大富豪になってから終わりたかったと残念そうにしていましたが、親以外の大人たちが寝ようと言い出すので、駄々をこねることもなく、この日は終了しました。
今回S君に誘ってもらい私は初めて大貧民というトランプゲームを覚えることができ、貧困ループの構造を考えるきっかけにもなりました。S君は貧困ループのことはあまりよくわかっていないかもしれませんが、ルールをよく知っていないと損をすることはわかったようです。これを日々の学校での生活や勉強に活かしてくれるといいなと思います。
友人のようなコレクティブハウスの居住者たちと社会ルールの話をして、6歳のS君に社会のルールを教えるきっかけにもなったこと、たくさんの学びがある一晩でした。これが多世代での暮らしの良さだなとしみじみ思いました。

文:久保有美

  • この記事を書いた人

久保 有美

不動産フリーエージェント。京都出身(京都いうても西の方) 好きな数字:3&9 宅地建物取引士 社会福祉士 賃貸不動産経営管理士 大学でコレクティブハウスという暮らし方に出会う。京都でコレクティブをやりたいと言い続け、建築会社・不動産コンサルティング会社を経て2021年に独立。 新たな暮らし方の提案、福祉と不動産の連携を目指す。

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