新築完成引渡しの翌日に賃貸借契約締結!
「菓子製造許可が取れる賃貸住宅」というタイトルで2022年7月から連載してきた本コーナーですが、2023年より「菓子工房賃貸推進プロジェクト」と名称を改めることにいたしました。
菓子工房付き住居または単体の菓子工房を増やしていくべく努めてまいりますので、本年もどうぞよろしくお願いします。
さてタイトル変更後・第一弾となる本稿では、Vol.001で紹介した菓子工房付き賃貸住宅が完成したことに関連する情報をお届けしたいと思います。
京王線「桜上水」駅(東京都世田谷区)から歩いて2分という場所に建てられた新築マンションの1階に菓子工房と住まいがセットになったお部屋をつくるという記事を2022年7月に配信したところ、4名の方から内見依頼のメールが届きました。
そのうちのひとり、井島渚さんが7月の終わりに内見くださった後、約1カ月間熟考された結果、入居申込みをしてくださいました。
このマンションは9月末に完成する予定でしたが、複数の職人さんが新型コロナウイルスに感染してしまい、完成が10月にずれ込みました。
この遅れが結果的には幸いし、居住スペースにも必要なトイレを新築工事の中で設置することができたのですが、今回はこのトイレ増設の話から始めたいと思います。
新築工事中にトイレを増設
はじめに上の間取図をご覧ください。こちらは設計当初の間取図で、左側の「LDK」が菓子工房となるのですが、右側の「Room」となっているスペースは、基本的に住居になると考えて設計されました。
ただ、このお部屋を借りる人によっては、全体を住居とされるかもしれないし、逆に全体を店舗として利用されるかもしれない。
そのどちらになっても大丈夫なように、応用が効く間取りとしていました。
一方で、菓子工房付き住居として利用する場合には、「Room」スペースに「菓子工房」とは別のキッチンとトイレが必要となることもわかっていました。
保健所から営業許可を取得する際、お菓子作りの場にあるキッチンとトイレを生活のために用いてはいけないという規定があるためです。
そのため、いざ菓子工房付き住居として借りたい方が現れたら、上の間取図のようにしようとオーナーと話し合っていました。
シャワールームの前にある洗濯機置き場を収納スペースに移設し、そこにトイレを設置するという考えです。
収納スペースにトイレをつくることもできますが、壁や扉をつけると工事代が高くなるので、この方法が合理的だと考えました。
そこへ井島さんの登場です。
井島さんが入居の意思を示してくれたのは9月下旬でしたが、新型コロナウイルスの影響で新築工事が1カ月延びてしまっていたので、新築工事の中でトイレ増設工事も行ってしまうことにしました。そのほうが安上がりにもなるからです。
トイレ増設の工事代は、敷金を1カ月増やし、それを償却させてもらうかたちで井島さんにご負担いただくことにしました。
敷金1カ月分で足りない分はオーナーがご負担くださいました。この調整がうまく進み、10月末のマンション完成までにトイレも無事完成。
井島さんはその翌日(2022年11月1日)に賃貸借契約を締結され、2週間後にお引っ越し。その後も保健所の現地検査、営業許可とトントン拍子に進み、2022年12月15日に菓子工房がオープンしました。
見学会&ミニセミナーを実施
話は少しさかのぼりますが、マンションが完成した3日後(2022年11月3日)、菓子工房に空き待ち登録をしてくださっている方たちにお声がけし、菓子工房付き住居の見学会とミニセミナーを開催しました。
当日は10名の方が参加してくださり、私のほうでこの部屋を詳しくご案内しました。
この日、ご説明した「菓子工房付き住居」のポイントは次の通りです。
1)菓子工房トイレを設ける場合は、トイレと菓子工房の間に「前室」があること
菓子工房にトイレを設ける場合は、トイレから菓子工房に直接出ることは許されず、間にスペース(=前室)を取ることが必要です。前室の広さに規定はないため、最小限にしています。
トイレまたは前室に、トイレタンクとは別の手洗いも必要となりますが、この部屋ではトイレ側に設置しました。
2)菓子工房にキッチンのシンクとは別の洗面台があること
菓子工房でお菓子作りを始める前に手を洗える洗面台が必要です。
その水栓は自動水栓やシングルレバーなど、手を使わなくても水を出し、止めることができることが必要とされています。
この部屋では前室扉の右側に設置しています。
3)床は汚れをすぐに拭き取れる材質であること
菓子工房の床は、汚れが染み込まず、すぐに拭き取れる素材であることが求められています。この菓子工房は土間にしてあるので、その基準を満たしています。
4)菓子工房と住居スペースは建具で完全に仕切ることができること
ここから先は菓子工房付き住居として成立させるための要件です。
まず菓子工房と住居スペースは衛生面での配慮から、建具で完全に仕切らなければなりません。カーテンやブラインドなどではダメで、扉が必須となります。
5)住居スペースにもキッチンがあること
菓子工房のキッチンを生活のために用いることは禁じられているため、住居スペースにもキッチンが必要となります。
このお部屋ではガステーブルは設けず、ポータブルのIHクッキングヒーターを必要に応じて設置していただく形式をとりました。
6)菓子工房にトイレがある場合は、住居スペースにもトイレがあること
前述の通り、菓子工房にトイレがある場合は、住居スペースにもトイレが必要です。井島さんはこのトイレを自費で設置されました。
当日の見学会では、この要点のほか、菓子工房としての長所もお伝えしました。
たとえばこのテラススペース。ここではつくりたてのお菓子を食べていただくこともできますし、マルシェなど販売スペースとしても利用することができます。
道路から一段上がったところにあり、フェンス等がないので、街に開かれた場となっています。
見学会のあとに行ったミニセミナーでは、自力で菓子工房をつくるときにぶち当たる“4つの壁”についてお話をしました。
“4つの壁”とは「基本的な知識の壁」、「不動産屋の壁」、「工事屋の壁」、「保健所の壁」で、菓子工房をつくりたい方は「不動産屋の壁」と「保健所の壁」については認識があるようですが、実は一番大変なのは「工事屋の壁」であるというお話をさせていただきました。この点についてはまた別の機会に本連載でお伝えしたいと思っています。
私のほうも菓子工房をつくりたい方たちのお話をたくさん伺うことができ、非常に有意義な会となりました。ご参加くださった方々にこの場を借りて御礼申し上げます。
井島さんの菓子工房を拝見
今回の菓子工房兼住居を借りてくださった井島渚さんは、契約をするタイミングで「株式会社強美」という会社を設立し、この菓子工房で乳・卵・小麦不使用のクレープ生地とクリームを使用した、身体にやさしいクレープを製造・販売するほかキッチンシェア(間貸し)も始めることにされました(※編集部注:現在は行っていません)。
クレープ屋さんは2022年12月15日にオープンしましたが、その2日前に完成した菓子工房を見学させてもらってきました。
井島さんの菓子工房の特徴は、テラスを使ってクレープなどを販売するため、菓子工房を仕切ったことです。
このスペースはテラスに面していて、ブラインドと扉を開けるとミニ店舗になります。
テラスに小さなテーブルと椅子が置かれていて、お客様は買ったその場で作りたてのクレープを食べることができます。
クレープの製造・販売スペースの外側となる菓子工房スペースでは、井島さん自身もお菓子をつくりますが、シェアキッチンとしても間貸しします。
借りてくださった方には、ここでつくったお菓子をテラスで一緒に販売できるという特典も!
原則無人販売のスタイルで、盗まれたり売れ残ったりしてしまったものは利用された方の負担となりますが、つくったお菓子を販売できるチャネルが広がるのは嬉しいですね。
この新築マンションは「働きながら暮らせる賃貸住宅」というコンセプトで設計・建築され、2階には雑貨屋さんやリラクゼーションサロンが入居されました。
井島さんのエプロンにはかわいいワッペンがついていましたが、これは雑貨屋さんから「お近づきのしるしに」とプレゼントされたとのこと。
今後、井島さんのテラスで雑貨屋さんの商品も展示しようかという話もあるそうで、小商いスペースとしてどんどん賑わっていきそうな雰囲気です。
井島さんはYouTubeチャンネルも開設されているので、この菓子工房を借りて、お菓子をつくってみたいと思われた方はチェックしてみてください。
菓子工房全体の様子が見られる動画もあります(上の画像にリンクを貼っています)。
編集部としては、初めて企画した菓子工房付き住居を、エネルギーあふれる井島さんに借りていただけたことを本当に嬉しく思っています。
ここをベースにして、どんどん事業を発展させていってほしい。その様子を伝えていくことで、第2、第3の菓子工房付き住居をつくりたいというオーナーさん、借りたいという入居者さんが増えていったらと願っています。
文:久保田大介