菓子工房づくりには4つの壁がある
Vol.006の記事でお伝えしましたが、2022年11月3日、空き待ち登録くださった方々を対象に、菓子工房付き住居の見学会&ミニセミナーを開催しました。
そのミニセミナーで、私は「菓子工房づくりには4つの壁がある」と説明しました。
4つの壁とは「基本的な知識の壁」、「不動産屋の壁」、「工事業者の壁」、「保健所の壁」です。
自前の菓子工房をつくりたい方たちは、「物件を探すのが難しい」、「保健所で営業許可を出してくれるか心配」ということは口々に言われます。
この2つは「不動産屋の壁」と「保健所の壁」に該当しますが、工事業者さんに関することはあまり話をされません。
おそらく、意識の外にある方が多いからだと思いますが、私は「工事業者の壁」こそ真っ先に乗り越えるべき壁だと思っています。
なぜそのように考えるのか、今回は「工事業者の壁」について説明をしながらお伝えしたいと思います。
「工事業者の壁」とは?
「工事業者の壁」を一言で説明すると、「信頼できる工事業者さんにビジネス・パートナーになってもらえるかどうか」ということです。
菓子工房の工事にはトイレの前室をつくったり、床の素材を変えたりする「内装工事」、キッチンや洗面台をつくる「水道工事」、換気扇やアース付きコンセントを設置する「電気工事」などがあります。
ここでお訊ねしますが、皆さんは内装工事業者さん、水道工事業者さん、電気工事業者さんに知り合いはいるでしょうか?
たとえば「水道工事業者さんだけは知り合いがいる」などという方もおられるかと思いますが、水道工事業者さんは内装工事や電気工事はできません。
各工事を個別に依頼しようとすると、それぞれの工程を調整しなければならないし、見積りも別々に取らなければいけないから大変。間取り変更を伴う場合は、コンセントや照明、洗面台の位置なども変わることがあるので、その調整も必要となります。
その点、内装工事業者さんであれば、水道工事と電気工事をアウトソーシングするかたちで、全部まとめて請けることが多いですから、内装工事業者さんに知り合いがいれば、話はだいぶ楽です。
しかし、どの分野であっても工事関係者に知り合いがある人は少ないですよね。
その結果、ホームページなどで探して相談する方が多いみたいですが、安かろう・悪かろうの工事業者さんもたくさんいますから、何を基準に選べばいいか悩んでしまうようです。
いつからお付き合いを始めるか?
また、工事業者さんといつからお付き合いを始めるかという問題もあります。
Vol.007で岡本来さんが菓子工房づくりをされるのをサポートした記事を書きましたが、このとき「不動産会社からいい物件を紹介されても、いくらで工事ができるかわからなければ、入居申込みをしていいかどうかわからない」ということを再認識しました。
たとえば工事予算を30万円ぐらいなどと考えていて、賃貸借契約を結び、いざ見積りをとってもらったら「100万円かかる」と言われ困ってしまう・・・などということは十分に起こり得ます。
そうならないためには、物件探しをしている段階で概算見積りをしてくれる工事業者さんがいるとありがたいです。
しかし、工事業者さんの側からしたら、借りるか借りないかわからない物件のために、わざわざ見積りを取るのは面倒なので、よほど親しい人からの相談でなければ、請けたくない業務です。
良い工事業者さんを探すには?
では、親身になってくれる工事業者さんがいない場合はどうしたらいいか、と言いますと、残念ながらこれといった良策はありません。
物件を仲介してくれた不動産屋さんに紹介してもらえばいいと思っている方も少なくないようですが、それで失敗するケースも散見されます。
なぜかと言うと、賃貸住宅の管理をしている不動産屋さんは、原状回復工事を依頼することが多いですが、お付き合いをしている内装工事業者さんはクロスの張替えやハウスクリーニングなどがメインで、リノベーション工事はあまりやっていないというところが多いからです。リノベーション工事を主体としている工事業者さんでしたら、菓子工房づくりなどお手の物ですが、そこが不動産屋さんと密に結びついているかというと、案外そうでもないのです。実際、リノベーション工事をしたことがほとんどないという不動産屋さんはたくさんいます。
そして簡易な原状回復工事を中心に請けている工事業者さんは、質より量で勝負しているので、菓子工房づくりのような骨の折れる仕事はあまり望まないし、請けていただいても上手にやっていただける保証はありません。
リノベーション工事をメインに行っている工事業者さん以外にも、店舗内装を得手としている工事業者さんに相談する方法もあります。ただ、どちらも工事代は少しお高めです。
そしてまた、リノベーション工事や店舗内装を得手としている工事業者さんが、物件探しの段階から概算見積りをしてくれるかどうかはわかりません・・・と、こんなふうに言っていると、堂々巡りになってしまいますね。
私もこれまでいくつか菓子工房をつくってきましたが、安心して任せられる工事業者さんは少ないので、いつも同じ方たちばかりに依頼しています。複数のパートナー業者さんがいますが、その方たちと出会うまでかなり苦労してきたため、工事業者さん探しの難しさはよくわかっています。
長年、不動産業を営んでいる私がこうなのですから、お菓子をつくることが本業の皆さんが工事業者さん探しに苦労されるのは当然のことです。
それでもやはり、信頼できて親身になってくださる工事業者さんを探すことから始めてみてほしいのです。繰り返し申し上げますが、工事業者さんのアテをつけずに物件探しをすると、痛い目に遭うリスクが高いからです。
本当は菓子工房づくり全体を手伝ってくれるコンサルタントがいれば、この問題も楽にクリアできるのですが、私はそういう方を存じ上げません(信頼できる方を見つけたら、すぐに本コーナーでご紹介します)。
この意味で、菓子製造業許可が取れる要件を備えている物件は大変貴重なのだと思います。
この連載を通して、はじめから菓子製造許可取得の基準を満たした物件を増やしていき、工事業者さんを探す労力とリスクをなくしてさしあげたい。空き待ち登録くださっている皆様とメールやオンライン・ミーティング、見学会などでお話する機会が増えるにつれ、その思いがますます強くなってきています。
文:久保田大介