錦糸町で菓子工房ヴィレッジづくりが検討されています
「菓子工房賃貸推進プロジェクト」Vol.023『菓子工房ヴィレッジづくりの夢を語り合おう!』という記事で、読者の方々に参加を呼びかけたトークイベントが、2024年9月23日に開催されました。
JR総武線・東京メトロ半蔵門線「錦糸町」駅から徒歩4分の場所にある「宮本マンション」を解体し、8階建てのビルを新築する計画が進められていて、解体される建物を舞台に1年前から「COUNTDOWN LAB KINSHICHO」というイベントが行われてきました。
その最終回となるイベントの中で、「ワクワク賃貸」とのコラボレーション企画として「菓子工房ヴィレッジづくりの夢を語り合おう!」をテーマにトークイベントが行われました。
今回はその場で語られた菓子工房ヴィレッジづくりのアイディアの数々をご紹介したいと思います。
菓子工房ヴィレッジとは?
トークイベントでは、はじめに宮本宜一オーナーが“お菓子の街”としての歴史を持つ錦糸町をご案内くださり、新築ビルの設計を担当するビーフンデザインの進藤強代表と門井慎之介さんにプランを説明いただいてから本編「菓子工房ヴィレッジづくりの夢を語り合おう!」がスタート。
はじめに私と、ゲストとして参加いただいた夢見キッチンの山本蓮理さんが、自分たちの考える夢の菓子工房ヴィレッジ像を語りました。
私が考えている菓子工房ヴィレッジには、まず菓子製造販売を生業としたい方たちのスタートアップの場として、菓子製造専門のシェアキッチンがあります。
そこで製造と販売の実績を積み、“自分の城”が必要となった方たちのための菓子工房が同じフロアもしくは建物内に複数あります。
共用部にはつくられたお菓子を販売できる常設のスペースがあり、またシェア利用できる教室もあります。
山本さんは私の話を継いで「菓子製造業を営む人たちは、コミュニティーと販路があれば、挫折せず続けていくことができる」と言われました。夢見キッチンでも開業したい方のサポートやマルシェ開催されていますが、同じ志を持つ者同士がリアルに出会い、助け合え、お客様にとっても「ここに来れば、この人(店)がつくったお菓子をいつでも買い求められる」という場所があったら、商売が成功できる確率がぐんと高まると考えています。
また、「菓子工房と住まいが一緒になった部屋が菓子工房ヴィレッジ内にあったら、時間を効率的に使えるのでとてもありがたい」と話されました。「逃げ場がなくなり、真剣に取り組まざるを得ない」という側面もあるとか(笑)。
住まいもセットとなった菓子工房が連なると、「村」感がいっそう増してきそうです。
私はシェアキッチンから自前の菓子工房を持つ前段階として、複数の人で同じ菓子工房をシェアするのも良いと常々考えていて、この菓子工房ヴィレッジにあるシェアキッチンで知り合って意気投合した方同士が、ヴィレッジの菓子工房を共同で借り、さらに事業が発展したらひとりで借りるという流れがあってもいいと話しました。
良好なコミュニティーを築いていけたなら、そんなことも容易になるのではないでしょうか?
空き待ち登録者さんたちのアイディア
このトークイベントには、11名の空き待ち登録者さんが参加くださり、その方たちには事前にアンケートにもご協力いただいていました。
アンケートで頂戴したアイディアをオーナーさん、設計者さんにぶつけ、ご意見を伺うという試みもしましたので、いくつかご紹介します。
アイディアその1:販売支援
参加者のひとり、廣川純子さんは、ダイナースクラブが主催する「フランス パティスリーウィーク」というイベントを紹介くださり、同様の企画を錦糸町の菓子工房ヴィレッジでもやってもらえたら嬉しいと言われました。
「フランス パティスリーウィーク」はイベント参加店が毎年同じテーマ(パリブレストやミルフィーユ、エクレアなど)でお菓子をつくり発表。スイーツ愛好者たちが参加店を巡り、味比べをするという企画です。
菓子工房ヴィレッジでも同じようなイベントが定期的に開催されたら、話題にもなるし、この場所に来てくださったお客様たちがいろいろなお店でお菓子を買い求めることが容易になり、自分のつくるお菓子を知っていただくチャンス拡大にもなるとのこと。
それを聞いたビーフンデザインの進藤さんは「菓子工房ヴィレッジ内での販売は百貨店形式にしたらいいと思う」とアイディアを補足してくれました。
お菓子をつくる方がそれぞれに販売業務をするのは大変なので、共用スペース内に販売コーナーをつくり、各店の棚にお菓子を並べ、受付やレジを建物管理者側で行うというアイディアです。
「販売」という意味では、「菓子工房ヴィレッジ内にとどまらず、同じ建物内にバーやカフェ、飲食店、ホテルなどが入るのであれば、そこでも私たちがつくったお菓子を扱ってほしい」というアイディアをアンケートに書いてくださった方がいました。
バーやホテルなどの一隅にただ陳列して売るだけでなく、バーでお口直しに提供してもらったり、ホテルのお部屋にウェルカムサービスとして置いてもらったりできたら、確実に売上増につながると思います。
さらに進藤さんは、「菓子工房ヴィレッジでオンラインショップも一緒に作ってしまったらいいのでは?」と夢を膨らませてくれました。
販売を支援してくれる賃貸ビルなんてできたら、本当に画期的ですね。
アイディアその2:共同仕入れ
トークイベントに参加くださった金子麻衣さんは小麦粉や卵、牛乳など食材の「共同仕入れ」を提案してくれました。
現在はシェアキッチンを使っているので尚更なのだそうですが、仕入れた食材を使い切れず、余らせてしまうので困っておられるとのこと。
「菓子工房ヴィレッジの利用者同士で食材を共同で仕入れたり、余った食材を分け合ったりできたら、仕入れコストを抑えられ、食品ロスも少なくできるのではないか」と言われました。
山本さんは「衛生管理の問題はあると思うが、仕入れ量のロットが大きくなれば単価を安くしてもらえるので、良い方法を模索できれば」と言って賛同されました。
アイディアその3:包装材などの保管スペース
事前アンケートで「製菓グッズや包装材の保管が場所をとってなかなかに大変なので、うまいこと収納できるアイディア満載のスペースがほしいです」と宮本オーナーやビーフンデザインさんに要望してくださった方もおられました。
つくったお菓子を包装する作業は、保健所の営業許可を得た工房で行う必要がありますが、包装材を保管する場所は工房外でも大丈夫です。
「菓子工房内に保管スペースが確保できればいいけれど、保管スペース分も家賃がかかることを考えると、菓子工房ヴィレッジの共用部分にシェアできる保管スペースをつくっていただけたら嬉しい」と私は伝えました。
立派なスペースでなくてもよく、設計上ちょっと余ってしまった部分などを保管スペースにし、棚単位でシェアできたら、非常にありがたいと思います。
冒頭で「菓子工房には料理教室として利用できるシェアスペースがあると嬉しい」と発言しましたが、「シェア」という考え方をすれば、それぞれの菓子工房の面積が抑えられ、その分、室数を多くすることができるかもしれません。そのほうが全体の賃料収入が増える可能性もあるので、オーナーさんには是非ご検討いただきたいアイディアです。
アイディアその4:切磋琢磨できる仲間
先にご紹介した廣川さんをはじめ、アンケートにご回答くださった複数の方々が「集客や販売方法の勉強会や、お菓子の共同開発などを菓子工房ヴィレッジの仲間と一緒にできたらよい」と提案してくださいました。
お互いの良いところを取り入れ合ったり、つくったお菓子を試食し意見をしてもらったりもできたら嬉しいと言われ、廣川さんはこの関係を「切磋琢磨できる仲間」と表現されました。
お菓子の製造販売をする同業者という意味ではライバルにもなるわけですが、蹴落とし合うのではなく、お互いを向上させていく仲間となれたら、こんなに心強いこともないのではと思います。
冒頭で山本さんが「菓子製造業を営む人たちのコミュニティーと販路があれば、挫折せず続けていくことができる」と言われましたが、菓子工房ヴィレッジはコミュニティーと販路をつくりやすい仕組みだと、あらためて感じました。
まとめ
トークイベントの終盤には、住居も住まいになった菓子工房についても触れられ、山本さんは「菓子工房を探しておられる方の中には40代・50代で現在の勤め先を退職したあと、菓子製造販売で身を立てていこうと考えている方もいらっしゃるので、その方たちを念頭に設計をしてもいいかもしれない」と言われました。
「単身の方もおられるけれど、お子さんが巣立ち夫婦2人になり、長年ご主人を支えてこられた奥様の夢を今度はご主人が応援するという家族もあるだろう。そうしたことも考慮し、どなたを対象に設計すべきか考える必要があるのでは?」と私も自分の考えを述べ、トークイベントは終了となりました。
「菓子工房ヴィレッジづくりの夢を語り合おう!」の本編は40分で、さほど長い時間ではなく、菓子工房兼住まいについて語り尽くすことができなかったのが、少々心残りでした。また、こういう機会を設けられたらなと思っています。
「COUNTDOWN LAB KINSHICHO」の最終回イベントでは「宮本マンション」内でマルシェも同時開催され、10人の空き待ち登録者さんも出店してくださいました。
当日、私はマルシェ会場の設営から最後の片付けまで参加しましたが、マルシェ全体を見通したのは初めてだったので、とても新鮮な体験でした。
出店者さんとはひとりずつお話をすることもでき、いまどのような環境でお菓子をつくっているのか、どんな問題を抱えているのかなどじっくり伺いました。
この日学ばせていただいたことは、今後の菓子工房づくりに活かしていきたいと思います。
また、マルシェについては自分なりに感じたこと、思いついたことなどがあったので、いずれ記事にしてみようと考えています。
「宮本マンション」の解体工事は2024年11月に始まる予定で、新しいビルは約2年後に完成します。
「菓子工房賃貸推進プロジェクト」のコーナーで、進捗状況を報告していきたいと思っていますので、錦糸町の菓子工房ヴィレッジに関心を持ってくださった方は、是非フォローを続けていただけたらと思います。
最後に、この日、トークイベントやマルシェにご参加くださった方々、事前アンケートにご協力くださった方々にこの場を借りて御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。
文:久保田大介