内装制限がある場合に、やってOKなDIYとは?
賃貸管理を行う会社に長年勤務し、これまで「住まいにDIYをしたい」という方にたくさんお会いしてきましたが、その方たちに必ず覚えて欲しいと思っている言葉が「内装制限」です。DIYするときに使う壁紙などの内装材は「燃えにくさ」で分類されており、建築基準法や消防法で、その部屋に使ってよい内装材の防火性能の分類が「不燃・準不燃・難燃」のどれなのか、もしくはその3種類のように「燃えにくい」ものでなくてもかまわないのかが決まっています。
内装制限のルールは、同じ居住用の建物でも建物の規模や構造で異なります。内装制限が全くない場合もあれば、キッチンのある部屋など一部の部屋にだけ内装制限がある場合、全ての部屋に内装制限がある場合などさまざまです。
そして、そのルールを完全に理解するのは建築士の資格を持っている人でも簡単ではないと言われていますが、それを一般の人にもわかりやすくしたのが「賃貸DIYガイドラインver.1.1」のフローチャートです。フローチャートをたどっていくと、自分のDIYしたい部屋に内装制限があるかどうかがわかります。
前編では内装制限に関してわかりやすく説明させていただきましたが、後編では、内装制限がある場合にどういうことに気を付けてDIYしたらよいのかをお話ししていきましょう。
「内装制限」がある場所に壁紙を貼りたいときは?
探して探して、やっとDIY可能物件を見つけ、早速リビングに好きな壁紙を貼ろうと思ってフローチャートで調べてみたら、「内装制限があります。壁・天井ともに準不燃以上の材料にする必要があります」と書いてあった…そんなケースを考えてみます。
まずは、メーカーや販売店のサイトで、貼りたい壁紙の商品の詳細を確認します。
女性に人気の空間デザイナー、坂田夏水さんのインテリアショップ、Décor Interior Tokyoのオンラインストア「MATERIAL」を見てみましょう。
素敵な木目柄の国産壁紙を見つけました。遠目で見ると、まるで本物の木のようです。写真のようにソファを置いたら似合いそうです。はたして内装制限があるリビングに、これを貼ることができるのでしょうか。
木目の壁紙のページをスクロールしていきます。下の方に書いてある、商品の詳細を確認してみると…
ありました!「不燃」という記載が!!
壁紙を貼りたいリビングの内装制限は、準不燃以上の材料ならOKとのことだったので、この壁紙を貼ることができます。
このように、壁紙のカタログの商品の詳細を確認すると、かなりの商品に防火性能の記載があり、防火性能が高い順に、不燃材料、準不燃材料、難燃材料となっていますので、フローチャートのゴールに合わせて選べば大丈夫です。
皆さんも試しに、いいなと思った壁紙の商品詳細を見てみてください。不燃材料、難燃材料といっても、結構豊富な商品群から選べることがわかると思います。内装制限があるからと言って、恐れることはないのです。
「内装制限」がある場所での壁紙貼りの盲点
内装制限がある場所での壁紙貼りには、防火性能のある壁紙を選ぶ以外にも、もう一つ注意しなければならないことがあります。それは、今貼ってある壁紙を剥がしてから、新たな壁紙を貼らなければならない、ということです。
内装制限は建物内部で火災が発生した際の危険度に応じて決まっており、万一火災が発生してしまった際に内装が激しく燃えて火災が広がったり、有害なガスを発生したりして、建物内部にいる人の避難を妨げる状況がないようにするためのルールです。
壁紙は基本的に燃えるものなので、2枚重ねて貼ってあると燃えるものの量が倍となるため、1枚の時より燃えやすくなってしまうのです。「燃えにくさ」が変わってしまうと、せっかく防火性能の高い壁紙を用意しても、内装制限のルールに合っていないことになってしまいます。
不燃、準不燃、難燃などの防火性能は、国土交通大臣が定めたものと、個別に認定されたものがありますが、壁紙は貼る前の下地との組合せで防火性能が決まります。
防火性能を決めるためには、加熱試験がなされます。加熱開始から材料が燃え始めるまでの時間が決まっており、不燃材料は20分、準不燃材料は10分、難燃材料は5分となっています。そして、壁紙の場合は壁紙だけを燃やすのではなく、壁紙とそれが貼られている下地とセットで試験がなされるのです。
壁紙の下地でよく使われるのが石膏ボードですが、石膏ボード自体の防火性能は、厚さ12mm以上のものは不燃材料、厚さ9mm以上のものは準不燃材料、厚さ7mm以上のものは難燃材料となっています。賃貸住宅には、厚さが12.5mm、または9.5mmの石膏ボードがよく使われています。
これらの下地の上に壁紙を貼った状態で試験が行われ、その組み合わせで防火性能が決まっているので、壁紙が2枚重なっていると試験がなされた状態とは変わってしまうのです。
「内装制限のある場所では、今貼ってある壁紙を剥がしてから新しい壁紙を貼る必要がある」ということの理由がおわかりいただけたでしょうか?
「内装制限」のある場所にモザイクタイルを貼りたい
内装制限のある場所にモザイクタイルを貼りたい場合は、どうなるでしょうか。壁紙のように、下地が関係あるのでしょうか。
実は、以下のものが国土交通省によって不燃材料と定められています。
・コンクリート
・れんが
・瓦
・陶磁器質タイル
・繊維強化セメント板
・厚さが3mm以上のガラス繊維混入セメント板
・厚さが5mm以上の繊維混入ケイ酸カルシウム板
・鉄鋼
・アルミニウム
・金属板
・ガラス
・モルタル
・しっくい
・石
・厚さが12mm以上のせっこうボード
(ボード用紙原紙の厚さが0.6mm以下のものに限る。)
・ロックウール板
・グラスウール板
DIYで人気のモザイクタイルは陶磁器質タイルに当たり、それ単独でれっきとした不燃材料ですので、内装制限のある場所に使用することが可能なのです。
「内装制限」が関係ない場所とは
自由にDIYして良い物件を借りたら、床もDIYしたいですよね。無垢のフローリングの床に憧れている人も多いでしょうし、最近はデザイン性の高いクッションフロアもたくさん売られています。
フローリングが古くなって傷んでいたりする場合、フローリングを剥がすのは初心者にはハードルが高いですが、その上から新たな床材を貼るDIYなら比較的簡単にできそうですよね。でも、内装制限がある場所の場合、壁紙と同じように上から重ねて貼ったらダメなのでしょうか。いいえ、安心して下さい。床は大丈夫なのです!
火は上に燃え広がる性質があるので、床の材料は内装制限とは関係ありません。内装制限で規定されているのは、室内の壁や天井の仕上げ材料だけとなっています。床のDIYに関しては、防火性能が低い材料を選ぼうが、それを今の床材の上から貼ろうが、DIYする人の自由なのです。
「内装制限」のある場所に珪藻土を塗りたい
珪藻土や漆喰も、人気のDIY材料です。DIY用にはちょうどよい具合に練ってあって、容器を開けたらすぐに塗ることができるものが売られています。DIY初心者でも扱いやすく、お子さんでも楽しく塗ることができます。
先ほどのMATERIALでも、漆喰の塗り壁材が売っていました。
商品ページをスクロールしていくと、商品の詳細が書いてありました。
「不燃」という記載の後ろに、「認定番号」と書いてあります。
壁紙のところで、防火性能は国土交通大臣が定めたものと、個別に認定されたものがあるとお話ししました。珪藻土塗り壁材は、モザイクタイルのところでご説明した、国交省が定めている不燃材料の一覧には入っていません。そのような材料に防火性能があることを証明するためには、国土交通省から指定された性能評価機関で不燃の条件を満たしているか確認する必要があります。防火性能があると認められると、国土交通大臣から認定番号が与えられ、不燃材料として使えるようになるのです。
この漆喰の塗り壁材はその個別に認定されたものにあたり、認定番号が与えられているというわけです。認定制度における認定番号は、不燃の防火性能を有するものはNM、準不燃はQM、そして難燃はRMの記号が頭についた4桁の番号となっています。この漆喰の塗り壁材は不燃認定がなされているので、認定番号の頭にNMがついていることがわかりますね。
ちょっと難しい話もありましたが、内装制限がある場合でも、使用するDIY材料の選び方や施工のやり方の注意点を守れば、かなり自由なDIYが可能だということがおわかりいただけたでしょうか?
賃貸住宅でDIYをやりたい人は、まずは借りているお部屋の内装制限を調べ、DIYをしたい場所に内装制限があった場合でも諦めずに、そのルールに適したDIY材料や施工方法を選んで下さい。
大家さんや、同じ建物に住む他の人たちへの安心・安全にも配慮しながら、賃貸住宅でのDIYを楽しむ人が増えて欲しいと心から願っています。
文:伊部尚子