正しい穴あけ方法を知らない人には、穴あけOKは出せない
本連載も2年目に突入しました。私はこれまで、賃貸住宅のリフォームのときに、玄関の鏡やコートフック、トイレや洗濯機置場の棚、室内物干しなどを積極的に設置提案してきました。施工してくれるのは、リフォーム屋さんや大工さんなので、大家さんも安心です。
もしもプロではない入居者さんから「壁に穴を開けて棚やフックを設置したい」と言われたら、大家さんはどう思うでしょうか。ほとんどの大家さんが不安を感じると思います。
賃貸住宅の壁に穴を開けて何かを設置するには、まずは大家さんに安心してもらうことが必要です。そのための第一歩として、まずは「正しく壁に穴を開ける方法」を学びましょう。
正しい穴あけとビス留めは、住まい手の安全のためでもある
私が今まで棚やフックなどの設置提案をしてきたのは、「賃貸住宅は壁に穴を開けられないので、入居者さんが欲しいだろうと思われるものはあらかじめ管理会社や大家さんが設置してあげないといけない」と思っていたからです。
しかし本来、お部屋のどこに何があると便利なのかを一番わかっているのは、そこに住まう入居者さんです。いくら管理会社や大家さんが入居者さんの気持ちを予測したとしても、そこに暮らしている人以上にはお部屋の使い勝手はわかりません。入居者さんに快適に暮らしてもらうには、好きな場所に好きなものを設置してもらえるようにするのが一番なのです。
しかし、棚やフックは物を載せたり何かを引っ掛けたりして使うもののため、正しい取り付け方をしないと思わぬ事故にもつながってしまいます。落下して子供にぶつかったりしたら大変です。
そうならないためにも頑丈に設置する必要があり、そのためには、正しい方法で壁に穴を開けて、正しい方法で棚やフックなどをしっかりビス留めする必要があるのです。
我が家で自分が設置したいと思っていたものとは?
正しく壁に穴を開ける方法を皆さんにお見せするため、まさに私自身が自分の部屋に設置したくて購入したものを、実際に設置してみます。
それは何かと言うと、洗面化粧台付近に設置するための拡大鏡です!
年齢を経て目が悪くなってくると、朝お化粧するときに洗面ボウルの奥の鏡が遠い・・・。
鏡に近づくために身を屈めると、中途半端な姿勢で今度は腰が痛い(笑)。
いろいろいたわりつつもそれなりにきれいにしたい妙齢女子には、拡大鏡は必須の設備なのですが、洗面所に設置してあることは稀なのです。
私が今回奮発して購入したのは、カワジュンの商品。 ホテルの洗面所でも遭遇する、デザインと機能性を兼ね備えた商品です。
賃貸住宅で大家さんに穴開けOKをもらいたい場合、退去時の穴の原状回復問題で躊躇されないためには、「これを設置して退去時には残していきます!」という方が通りやすいと感じています。
そのためには、大家さんに商品の画像を見せたときに、「あら、なかなか素敵じゃない!」と思ってもらえるような商品であることが重要だと思います。
設置場所や手順をしっかり確認
住戸の壁には、たとえ大家さんがOKしたとしても穴を開けてはいけない壁があることは、このコラムでも以前ご紹介しました。注意しなければならないのは住戸と住戸の間の「戸境壁」で、穴を開けたことによって耐火、遮音、断熱などの住宅性能を損なう恐れがあるので大家さんでは判断しにくいです。
戸境壁に穴を開けたいと言われたら、建築士など専門家への確認が必要となることが多く、すんなり行かないことも多いでしょう。
その点洗面化粧台の横の壁は、多くの住戸で戸境壁でないことが多いので、OKが取りやすいと思います。
私の住まいも、戸境壁ではありませんでした。
取扱説明書には、取り付け方法が下記の図のように図解されていました。
この拡大鏡は、ビス(取り付けネジ)4本で壁に固定する商品だとわかりますね。
取り付けしたい場所の壁を叩いてみると、コンコンと石膏ボードが貼ってある中空壁独特の軽い音がしました。
私は管理会社勤務なのでこの壁が石膏ボードだとわかりましたが、慣れていない人はその壁にコンセントプレートやスイッチプレートがあれば外して壁の断面を確認するとよいでしょう。
プレートのカバーはマイナスドライバー等を使って簡単に外すことができます。
インターネットで検索すると外した方を説明しているサイトがたくさん出てきますので、参考にして下さい。
くれぐれも、感電しないように十分注意して下さいね。
設置したい位置の壁の裏がどうなっているか、それが肝心!
壁の状況がわかったら、早速取り付け位置を決めてマスキングテープで印をつけていきます。
そして、ビス止めが必要な場所の壁の裏に、ビスがしっかり刺さって固定できる下地があるかどうかを確認します。
壁の下地とは、石膏ボードなどの壁材を取り付けるための構造部材のことで、室内側からは見えませんが柱状に、303mmまたは455mm間隔になっていることが多いです。
下地がない場所は、石膏ボードやベニヤのみで奥はスカスカになっていることが多いので、そのままではビスが空回りしてしまい、しっかり留めることはできません。
「下地がある場所を調べてそこにビスを刺して下さい」と言われる場合もあるかもしれませんが、住まい手側からすると「絶対ここに設置したい!ここでなくては嫌!」という場所があると思いますので、そのような理想を追求したい場合は、設置したい場所に下地がなければないなりの方法を考えなければならないことになります。
下地を探す道具は、「電池で動くセンサー式」と「アナログな針式」があります。
ピンポイントで「ここに設置したい!」という場合は針式で十分だと思います。
壁に挿してみて、奥までブスッと入る場合は下地がなく、途中までしか刺さらず固い感触の場合は下地があります。
石膏ボードの場合は針に白い石膏が付くので、それも参考にして下さい。
ちなみにセンサー式の下地探しもお値段ピンきりで、2,000 円くらいからお高いものは 10 万円くらいまであります。
私自身は徐々に高いセンサーに目移りしていき、今の愛用品は BOSCH のマルチ探知機 GMD120 です。
30,000 円超なのでちょっとお高めですが、使いやすさも精度も申し分なしの逸品です。
今回の拡大鏡を設置したい場所は、4本のビス位置のうち、左2本の位置には木下地がありましたが、右2本の位置には下地がなく、薄いベニヤ合板のみで奥はスカスカでしたので、右側には「石膏ボードアンカー」を使用することになります。
必要な場所に石膏ボードアンカーを設置
石膏ボードアンカーとは、石膏ボードに打ち込むと先端が壁の裏で広がったり、アンカー自体が石膏ボード内部に食い込んだりして、ビスだけで刺すよりしっかり固定できるという便利な商品です。
壁に穴を開けたいと思う全ての人は、石膏ボードアンカーの仕組みを理解していなければならないと、私は考えています。
それほど重要な役割を果たすものなのです。
石膏ボードアンカーにも様々な種類があり、石膏ボードの厚さや用途に応じでアンカーを選ぶ必要があります。
ホームセンターのほか、インターネットでも購入できますが、壁の厚みを確認しないで購入しようとすると、種類が多すぎて迷って選べないことになるので注意してください。
とは言え、賃貸住宅の石膏ボードの厚みは12.5mmと9.5mmがほとんどなので、調べられなかった場合はそれに対応できる石膏ボードアンカーを買っておけば、大抵はなんとかなると思います。
今回は、下地がなくて石膏ボードアンカーが必要だと判明した右側2箇所に、石膏ボードアンカーを設置するための穴を開けていきます。
今回の場所は石膏ボードの厚みが12.5mmだったので、石膏ボードアンカーは中空壁用の「トグラーTB」を使用します。
下穴はトグラーTBに合わせ8mmの穴を開けました。
トグラーTBは穴開けが必要ですが、ドリルを持っていない場合は、先が尖っていて石膏ボードのそのままねじ込むことができる、穴開け不要のらくらくボードアンカーやボードタップが便利です。
いよいよ本体設置!
厚みがあってずっしり重たい取り付け板を、ビスで固定していきます。
4本のビスがあるので、それぞれ少しずつ留めていくのが、壁から固定板が浮くことなく、ぴったり取り付けるコツです。
本体を止めネジで固定して、完成です!!!
洗面所用に拡大鏡があると、思った以上に毎日快適で、今となってはなくてはならない存在になりました。
なぜか私以上に夫が便利に使うようになったのが驚きでした。
ひげ剃りのときにすごく重宝しているようなのです。
すっかり調子に乗って、カバンをかけるためのフックも設置してみました。
仕事用のカバンは驚くほど重たく、2ヶ所取り付けたい位置のうち片方には下地がなかったので、ここにも石膏ボードアンカーが必要でした。
これを読んでいる皆さんがもしこの部屋の大家さんだったら、私が拡大鏡とフックを設置したいと言ったらOKするでしょうか?
設置するもののデザインが周囲のインテリアに馴染み、設置方法が適切で、しかも退去時に置いていくとしたら、断る理由はないのではないでしょうか。
このあたりをきちんと大家さんに示すことが、「壁に穴を開けてもいいですよ」と言われるコツなのだと思っています。
皆さんにもぜひ、好きな場所に好きなものを設置する自由な暮らしを諦めずに、頑張ってみてほしいです!
文:伊部尚子