《 DIY賃貸推進プロジェクト 》Vol.028

賃貸住宅で行いたいDIYによる地震の防災・減災対策※大家さんへの地震対策DIY申請書モデル付き※

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気になる!住まいの地震対策

皆様こんにちは! DIY賃貸推進プロジェクト、特派員の伊部尚子と申します。
最近は「南海トラフ地震臨時情報」の呼びかけがあるなど、地震がとても多くなったと感じていて、私自身も防災・減災対策に取り組んでいます。
身近でも食料の買い置きや避難グッズを揃えるなどの備えをしている人が増えていますが、住まい自体の被害もなるべく防ぎたいもの。
賃貸管理会社の立場としてもしっかり取り組みたい課題ですので、今回は住まいの被害を防ぐ方法を、DIY目線で考えたいと思います。
本文の最後には、賃貸住宅のオーナーさんに、地震対策のためのDIYを承諾いただきやすい方法をお伝えしていますので、「賃貸住宅では無理!」と諦めず、通してお付き合いいただければ幸いです。

震災のとき、住まいでどんなことが起きるか

震災後のニュースでは、家具が倒れて物が散乱し、ガラスの破片が飛び散るなど、大変な状況になっている室内の様子を目にすることが多いと思います。
東京都が出している防災ブック「東京くらし防災」には、「ひと目でわかる自宅に潜む危機」のイラストが掲載されていますが、実際に震災で起こればまさにこのような状況になると思います。とても恐ろしいことです。

東京くらし防災 96ページに記載されています

家具の転倒防止策にはどのような方法があるのか

このような被害をなるべく防ぐために有効なのが、家具等の転倒防止対策です。「東京くらし防災」には、具体的な方法として、箪笥や本棚等の家具や、オーブンや電子レンジ等の大型家電の固定が紹介されています。

東京暮らし防災 35~36ページに掲載されています

家具等の固定の方法として、「L字金具で壁に家具を固定」、「ポール式の器具で天井に突っ張る」、「床との間にストッパーを置く」等、いくつかの方法が取り上げられています。
簡単にできるのは突っ張り式で、賃貸住宅では特に多用されている方法ですが、天井までの距離があるとちょっと不安があります。

我が家の本棚に設置した突っ張り耐震ポール、長すぎてちょっと不安・・・

電子レンジ等の大型家電は、大きな地震のときには横に飛ぶ(!)と言われています。こんな重たいものが飛んできたらまさに凶器! それを防ぐために固定するグッズが売られていますので、家電収納や棚自体の固定と合わせてやっておきたいですね。
私は自宅のオーブンレンジには転倒防止ベルトを設置しました。バックル式なのでベルトを外せば掃除もできる優れものです。

我が家のオーブンレンジは作り付けのカウンターの上に置いてあります

さて、大型家電の王様といえば、冷蔵庫ではないでしょうか?
冷蔵庫はオーブンや電子レンジ等の比ではない重さ、大きさ。引っ越しのときに部屋から運び出したり運び入れたりするのもとても大変なのに、これが地震で倒れたらと思うと・・・! 想像したくない~!
起こす作業も大変そうですが、中身の食品も一緒に倒れてぐちゃぐちゃになることを思うと、片付けにも困りそうです。何とか倒れないようにしたいですよね。
そう考えて、まずはじめに手を付けたのは一人暮らしの母宅の冷蔵庫です。
皆さんのご実家もそうだと思いますが、実家の冷蔵庫ってなぜか大きい(笑)。もし倒れたら母1人では絶対に起こせないと思い、手軽な貼り付けタイプを購入して設置してみました。

プラスチックのベースを壁と冷蔵庫に貼り、ゴムベルトを通すタイプ

実際に設置してみた様子

ビスで固定するしかないケースがある

家具家電の固定のためのグッズは色々と売られていますが、穴の開けられない賃貸住宅を想定してか、粘着式で後から剥がすこともできる商品が多く開発されている印象です。メーカーさんの努力の賜物ですね。しかし、粘着式が使えない場合もあるのです。
母宅の冷蔵庫の固定が終了し、さて我が家もと思いましたが、冷蔵庫の上を見てみると放熱板らしきシルバーの板がありました。これでは、粘着式の耐震ベルトは付けられません。

我が家の冷蔵庫(日立製)は、上部に放熱板のあるタイプでした

取扱説明書を確認してみると、メーカー純正の地震転倒防止ベルトがあるとのことです。脚立を使って冷蔵庫の上側から背面を覗いてみると、左右に2箇所、ベルトを取り付けるための取っ手がついていました。
私が調べた限りでは、日本の主なメーカーの冷蔵庫は地震転倒防止ベルトを付けるための背面取っ手があるようです。

地震転倒防止ベルトは、冷蔵庫1台につき2セット使用します

日立のサイトから引用

これを取り付けるには壁側にビス打ちする必要がありますので、下地探しでビス打ちできる場所を探してみました。

愛用している下地探し2種、針式とデジタル式

針式は壁に刺して下地を探します

探した結果、冷蔵庫の背面の壁には下地が見つからなかったのですが、右側壁の奥に発見。左側は吊戸棚があるので、サイズピッタリの木板をネットショップでオーダーして、それを左右にビス打ちして下地を作りました。
転倒防止ベルトは取り付け位置が決まっているので、ちょうど良い位置に下地があることは稀な気がします。下地がある部分にビスを打ち、板を取り付ける方法が良いと思います。私はシナ合板を高さ130mm×横幅675mm×厚み25mmのサイズ指定でオーダーしました。送料込みで3,000円程度でした。

日立のサイトから引用

下地になる板を固定しているところ

下地に地震転倒防止ベルトをビス留め

私の身長より冷蔵庫が10cmほど高いので、冷蔵庫の扉を開閉するときには下地やベルトは見えません。でも、離れた位置からは下地板が見えてしまうので、余ったペンキで白く塗装しました。

取り付ける前に塗装すればよかった・・・

苦労しましたが、完成しました!大満足です。
そして何より、冷蔵庫が倒れにくくなったことの安心感は、とても大きなものでした。

DIYは、工夫してできたときの喜びが大きいのです

突っ張り式や粘着式が使えないケースはほかにもある

転倒防止策を進めていくと、ビス打ちしないと難しいケースがほかにも結構あることがわかりました。
たとえば母宅の液晶テレビスタンドを固定するため、壁に粘着するタイプの転倒防止ベルトを購入したのですが、テレビを置いている場所の後ろの壁のアクセントクロスに汚れ防止機能があり、うまく貼り付けることができませんでした。貼り付けてしばらくしてから見てみると、ポロリと落ちているのです。
壁はコンクリートなのでビス打ちできないため、上部の木部に金具を設置してワイヤーで繋ぎました。

地震で揺れてもワイヤーで吊られて倒れない

我が家の背の高い本棚は、突っ張り式の耐震ポールだけでは不安なので、ワイヤーで固定しました。ここも壁はコンクリートで穴あけできず、表面はでこぼこしているので粘着式は難しいため、木枠部分に金具をビス留めしました。

背の高い本棚2つを連結し、まとめて固定

母宅の冷蔵庫の隣の家電収納には、振動を吸収するL型の転倒防止部品を貼り付けましたが、天板の素材が化粧仕上げされておらずベニヤがザラザラしていたため、粘着力に不安がありました。結局、追加でワイヤーを購入し、ついでなので冷蔵庫も一緒に固定しました。

ちょっと大げさな見た目ですが、安全には代えられません

ウォーターサーバーがあるお宅も増えていると思いますが、これも結構重たいですよね。
倒れて破損することがないように固定したいと思い、メーカーのサイトを調べてみたら、なんと最初から転倒防止用のワイヤーが裏側についていました。
冷蔵庫等と同じように粘着式でもよいと思いますが、サイズや設置場所を考えると普段の暮らしで目につきやすいため、見た目に影響が出ないようにワイヤーを木枠にビス留めしました。

ワイヤーが付いていることに全く気づいていませんでした

賃貸住宅での転倒防止策はどうすれば良いか

このように、突っ張り式や粘着式が使えない場合、壁や木部に穴を開けられない賃貸住宅では、「防災対策ができない」ことになってしまいます。
しかし、管理会社の私たちから見ると、家具や大型家電の転倒防止策を行うことは、入居者さんのためだけではなく、大家さんのためでもあります。
大きな地震が起こると、管理会社には「家具が倒れてぶつかり壁紙が破れた」「テレビが落下してフローリングに傷がついた」などという入居者さんからの連絡が入ります。人が暮らしに必要な家具や家電を所有することは当たり前のことですが、それらの転倒防止策を図ることは義務ではありませんので、この場合の傷は自然災害により不可抗力であり、故意過失には当たらず、入居者さんに修繕負担義務はないということになります。
大家さんが入っている建物の火災保険でも、傷程度の修繕費では免責になっているものが多いと思われるので、修繕費用は大家さんの持ち出しになってしまいます。実務上では退去時までそのまま我慢して住んでいただき、退去時に精算なしにするケースが多いでしょう。
つまり、入居者さんが家具家電の転倒防止策を自ら実施することは、大家さんの資産を守ることにも繋がると思うのです。大家さんにそのことがきちんと伝われば、穴あけを承諾してくれる確率が上がるのではないでしょうか。

物がぶつかったことによるフローリングの傷

耐震防止策のため、壁や木部にビス打ちを行いたいときに、大家さんへの交渉方法を考えてみましょう。

大家さんへの交渉方法

  1. 地震が多いので、家族の安全のために、家具や大型家電を固定したいことを伝える。東京消防庁の調べでは、地震による怪我の原因の約30~50%は家具類の転倒・落下・移動によるものとのことなので、そういうデータも活用して説明するとよいでしょう。
  2. 物件の所在地の自治体の出している防災対策の情報を確認し、それに沿って家具や大型家電の転倒防止対策を考えたときに、突っ張り式や粘着式では難しいものがあったことをわかりやすく説明する。自分の物件の室内の状況に詳しくない大家さんが多いので、間取図、家具家電の位置、設置場所の写真などを用意して状況が伝わるようにする。
  3. 利用したい耐震グッズの商品概要と取付説明書を用意し、どの場所に何箇所ビス留めする必要があるのかが分かるようにする。
  4. 自分たちの安全のためだけでなく、家具等が転倒して壁や床を傷つけないようにしたいことを説明。災害未経験の大家さんが多いので、原状回復技義務がないことを知らない大家さんもいるかもしれません。

参考にしてもらえるように、冷蔵庫の転倒防止ベルトを設置する場合の申請書を作ってみました。申請書に記載している賃貸借契約書の条文番号は、ご自身の賃貸借契約書の条文番号をしっかり確認して作成してください。

もし「穴あけは良いけれど、原状回復義務はある」と言われてしまったとしても、木部の穴の原状回復は穴埋め補修と表面の色のタッチアップ程度なので、費用はさほど高くありません。
施工する業者さんにもよりますが、あえて金額を示すのであれば2,000円前後というところでしょうか。壁の穴については、過去の記事に詳しく書いてありますので、参考にしてください。

私は自宅と一人暮らしの母宅の家具や大型家電の固定をしてから、外出先や寝ているときに地震が来ても、「大丈夫!倒れない!」と思えるようになりました。その安心感には値段が付けられません。
皆さんも是非トライしてみてくださいね。

文:伊部尚子

  • この記事を書いた人

伊部 尚子

独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。好きな工具はBOSCHのコードレス電動ドライバー。DIYアドバイザー、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター、CFP®

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