[小商い建築ウォーカー神永セレクト#004]
さて、今回ご紹介するのは初めての神奈川県物件で、横浜市にあります。
相鉄本線「天王町」駅から徒歩5分ほど、鉄道高架下に位置する「YADORESI(ヤドレジ)」というシェアハウスタイプの小商い賃貸です。
特徴は、最小限のスペースでありながら、暮らしを変える大きな一歩を受け止める、窓辺型の小商いスペースがあること。
“小商い”と一口に言っても、誰もがすぐに商売できるようになるわけではありません。
その手前には、やりたいことを具体的にする時間や、サービスやしくみを学び実験してみる時間、活動名を考える時間などが誰にでもあるはず。そんな、自分自身と向き合う小商いの準備期間を過ごす拠点としてもおすすめできる、ルーキー向け物件かもしれません。
実はこの施設、私が所属するYADOKARI株式会社が企画と運営を手掛けているのですが、是非多くの方々に届けられたらと思いピックアップしました。
実際に運営を担当する山下里緒奈さんに、私もまだ聞いていない具体的な生活風景の様子も話してもらいながら、楽しく取材をしてきたので、是非ご一読ください。
Contents
1.「食・働・癒」と暮らしが融合する、明るい高架下の住まい
YADORESIは、「星川」駅から「天王町」駅間の高架下空間を活用した複合施設、「星天qlay(ホシテンクレイ)」のDゾーンの一部で、“生きかたを、遊ぶ住まい”がYADORESIのコンセプトです。
星天qlayは“生きかたを、遊ぶまち”をコンセプトにA〜Eの5つのゾーンで構成されていて、そのライフスタイルを体現する住人が集まる住まいになっています。
高架下と聞くと、雑居ビルの多い賑やかで雑多な印象が先行してしまいますが、この場所は、「明るく風通しの良い高架下」空間。敷地沿いには緑豊かで幅の広い歩道が伸びていて、高架下であることを忘れてしまうほど。住環境としての心配は必要ありません。後ほど屋内空間も紹介しますが、高架が高いこともあってか、電車の音も全く気になりません。
Dゾーンには、クリエイター向けコワーキングスペース「PILE-A collaborative studio」やフィンランドのコーヒーショップ「Robert’s Coffee」、サウナやBBQ施設を構える「HUBHUB」も入居しており、「食・働・癒」と暮らしが融合する住まいになっています。
建物は、高架下空間らしいリニアな形状と、ずらっと並ぶ窓が特徴です。
“生きかたを、遊ぶ住まい”とはどのような住まいなのか、さっそく中の様子をお伝えしていきたいと思います。
2.ミニマルな個室と広々とした共有部が特徴のシェアハウス
玄関から入るとワンルームで広がるのは、大きなリビングダイニングキッチンです。
ダイニングテーブルやソファが設置され、住人同士で集まり食事やおしゃべりとともにくつろぐ時間の妄想がふくらみますね。
そして、一人暮らしでは到底叶わない大きなキッチンが2台あることも嬉しいポイント。
実際に自炊をする住人も多く、食事をつくってみんなで一緒に食べる時間は大切な交流のきっかけになっているのだそうです。
最近住人の間では「プレイエリア」と呼ばれるようになったこの部屋。プレイとは“PLAY=遊ぶ”という意味で、住人の好きなことや興味を持ち寄り共有して面白がろうという意図があるそうです。
「PILE- A collaborative studio」で製作したアート作品が飾られていたり、”誰か”の楽器が置かれていたり、個人の活動があふれ出ている共有部に、YADORESIでの暮らしの楽しみ方のヒントが見えてきそうです。
木曜日にみんなで映画を鑑賞する「木曜シネマ」というイベントも始まり、シェアハウスならではの交流の機会が充実しています。
“プレイエリア”を抜けると、22部屋ある個室がずらーっと整列していて圧倒される長い廊下空間があり、個室の扉と反対側には窓辺が反復して並んでいます。この窓こそ、小商い賃貸として紹介するポイントである「はなれマド」です。
まずは気になる個室からご紹介します。
面積は11.09㎡〜12.34㎡とコンパクトですが、シェアハウスであるにも関わらず、シャワールームやトイレ、洗面が個室についていることが大きな特徴です。
シャワーを浴びて就寝し、朝起きて身支度するまで、プライベートな時間を個室で完結することもできます。また、徒歩10分程で銭湯に行けるので、湯船につかりたい日は同居住人と一緒に銭湯へ行き、同じ家に帰ってくるという楽しみ方も起こっているのだとか。
そのほか、ベッド台や小型冷蔵庫、小さなテーブルも備え付けで、最低限の荷物だけで入居することが可能な点が魅力的です。
間取りは2種類ありますが、水まわりの位置や備え付けの家具配置が反転していること以外は同じ。
家賃は55,000円に共益費が25,000円で、電気水道やガス、ネットの料金が含まれる共益費にはなんと、冒頭で紹介した「PILE」や「Robert’s Coffee」をお得に利用できる特典も付いています!Dゾーン全体を使いこなす、住まいで完結しない、開かれた暮らし方も実現できるのではないでしょうか。
3.ちいさな小商いを後押しする「はなれマド」
そして、個室の扉を出た廊下の先にあるのが「はなれマド」。個室ごとに一箇所ずつあります。
これまで紹介してきた小商い賃貸は、店舗スペースや製造所として用意されている物件でしたが、「はなれマド」はその名の通り、窓の進化型スペース。住居空間の少しの延長であり、店舗未満だからこそ、その使い方は自由です。
ギャラリーとして利用したり、製作スペースや物品販売所として利用したり。歩道とダイレクトにつながる「はなれマド」は、小商いに向けて小さな一歩を踏み出す際にぴったりの、背伸びしすぎないサイズ感です。
自分の活動に屋号をつけて発信し始めてみることも、地域にひらいたイベントで参加者から意見を聞くことも、普通の賃貸住宅では難しいトライアルがすぐに実践できる環境になっています。
現在の入居者の活動は、本屋さんやフォトブース、作品製作のアトリエ利用など本当にさまざまです。
YADORESIでコミュニティビルダーとして住人の活動を後押しする中尾みゆうさんは、「はなれマド」を駄菓子屋としてオープンさせ、子どもを対象にしたアートワークショップを開催しています。
彼女は教育を学ぶ学生であり、地元でもあるこのまちで、子どもたちが遊びに来る場所をつくることができたら、と考えているとのこと。さらに彼女は腹話術師の一面も持っているのだから驚き! これからのあらゆるスキルを生かした活動に目が離せません。
4.住むだけじゃない賃貸住宅で、暮らしを拡張する
YADORESIは、2023年4月にオープンしたばかりで、2023年8月時点、入居者もまだ募集中です。
毎月第3土曜日をオープンデイとして開放していて、暮らしや入居に興味がある人はもちろん、地域の子どもから大人まで遊びに行くことができます。
思い思いに暮らしを拡張することができる、賃貸住宅に付帯する小さな窓辺空間「はなれマド」。
将来自分のお店を持ちたい、特技を生かした活動を始めてみたいなど、人生におけるあらゆる目標を持つ仲間がたくさん集まってきているYADORESI。ここでの暮らしは、住まいから星天qlayという施設、そして星川天王町エリアという街までボーダーレスに横断する、心身ともに開放型の暮らしが叶うことが大きな特徴かもしれません。
“生きかたを、遊ぶ”ライフスタイルを体現するこの場所で、住むだけじゃない暮らし方が作り出す予測不可能な出来事に期待して、また遊びにいきたいと思います。
文:神永侑子