《 世界のワクワク住宅 》Vol. 013

飛行機、巡視船、鉄道車両・・・ “引退”した乗り物をリノベーションしたホテル 〜 ワイトモ(ニュージーランド)〜

投稿日:2018年12月20日 更新日:

©Woodlyn Park, New Zealand

今回ご紹介するホテルでは、客室が各種乗り物の中にある。乗り物好きならば、ワイトモに用はなくともここウッドリンパークに泊まりたくなるのではないか。というのも、交通や輸送の現場で活躍していた列車、飛行機、船を眺めるだけでなく、その中で食事をしたり眠ったり…と、乗り物にワクワクする体験を心おきなく楽しめる物件なのだから。

©Woodlyn Park, New Zealand

ウッドリンパークはニュージーランド北島中央のワイトモにある。オークランドからは車で2時間半くらい。有名な観光スポットのグローワーム・ケーヴ(土ホタルの洞窟)にも近い。

©Woodlyn Park, New Zealand

35ヘクタールの広大な敷地に客室として点在するのは、1950年代の鉄道車両、ベトナム戦争で使われた双発輸送機、そして第二次世界大戦を生き延びた巡視船、というラインアップ。いずれも数十年前には輸送・交通手段として使われていた歴史を背負っている。どれも丁寧に修復され、全室バスとキッチンのついた宿泊施設になった。

©Woodlyn Park, New Zealand

©Woodlyn Park, New Zealand

©Woodlyn Park, New Zealand

ウッドリンパークに客室として導入された乗り物第一号は古い鉄道車両だった。ワイトモ・エキスプレスと名付けられたこの車両が置かれているのは線路上ではなく、鳥や小動物の遊ぶ丘。振動も走行音もなく、静かな環境で眠ることができる。改造された内部には、キッチン、バス・トイレ、リビング、それに寝室が二つある。このユニットには6人まで宿泊可能だ。

©Gary Danvers Collection

©Woodlyn Park, New Zealand

©Gary Danvers Collection

ウッドリンパークの飛行機は1950年代製のブリストル・フレイター。ベトナム戦争当時、軍の物資輸送に使われていたこの双発機内には二つの宿泊ユニットがある。写真からもわかるように、コックピットの寝室は、天井が低い。はしごを使って上らなければならない不便さもあるが、ロフトのような構造に子供たちは大喜びするらしい。飛行機には、後部ユニットとあわせて6名まで宿泊できる。

©Woodlyn Park, New Zealand

ウッドリンパークの広大な敷地に入って、まず目に飛び込んでくるのは陸地に上がった大きな船だ。1942年にオークランドの造船所で作られたこの船は、第二次世界大戦で対潜水艦巡視船として使われた12艇のうちの一艇。長さ31メートル、重さ80トン強の船は特別なトレイラーでワイトモまで運ばれた。

©Woodlyn Park, New Zealand

©Woodlyn Park, New Zealand

この船は軍用船だったが、ワイタニックというニックネームに負けないよう、クリスタル・シャンデリアや高級な家具調度を揃えたという。このワイタニック号にはバス・キッチン完備のユニットが5つあり、25名まで宿泊できる。最も豪華なのはキャプテンユニット。最上層はリビング・ダイニング、バス、キッチンに専用のデッキ。中間層はデッキ付きの主寝室。さらにその下には寝室が2つとバスルーム、と3層にまたがる構成。二人用のコンパクトな部屋もあるが、全室バス・キッチン付きだ。

©Billy Black Woolman

ところで、ワイトモの自然の中に乗り物を配置し、宿泊施設に改造したのは一体誰で、その発想はどこから来たのだろう? ウッドリンパークを設立したのはバリー・ウッズという近くの農場主だ。彼はビリー・ブラックというステージネームで長年農場パフォーマンスを主催している有名人でもある。

©Billy Black Woolman

©Billy Black Woolman

ニュージーランド開拓の歴史や農場での知恵や伝統が忘れられつつある! このような危機感を抱いたバリーは、楽しく学べる「キウィ・カルチャーショー」を思いつき、ビリー・ブラックの名前で全国の学校を回り、一躍人気者になる。昔からの工具や技術の紹介、羊毛刈りや丸太切りの実演、ブタや牧羊犬を交えたダンス等々、笑いの絶えない60分だという。最近では、牧羊産業を支援するキャンペーン・フォー・ウールに協力し、優れた天然素材としての羊毛の普及活動にも従事している。

©Billy Black Woolman

バリーは1日に8500頭の羊を刈る世界記録を樹立したプロの羊毛刈り師グループの一人。その腕を見込まれて世界中から招かれて旅を重ねるうち、「ニュージーランドの魅力を再発見した」そうだ。「この国の自然の豊かさや美しさをもっと世界にアピールしたいと思うようになった」とも。こうしてホテル(観光)と農場ショー(啓蒙)という二つの事業に乗り出すことになる。

©Woodlyn Park, New Zealand

「観光客にもキウィ・ショーを見てもらいたいから、農場の近くに宿泊ホテルを作ろうと思ったんだ。だけど…」とバリーは語る。「世界中どこでも、ホテルはみんな似たような感じだったから、絶対に普通とは違うホテルにしたかった」。具体化の方法を探っている時、たまたま1950年代の鉄道車両が売りに出されているのを見て購入を即断。歴史を生きた古い乗り物をホテルにする方針が決まった瞬間だった。

「何もない草原だったから、水道や電気を引くことから始めた」。ホテル開業まで苦労の連続だったらしいが、バリー・ウッズ支えてきたのは郷土や牧羊に対する愛情とプライドだ。だが、設立から20年が過ぎ、「ウッドリンパークはひと区切りだね」とバリー。「ホテル経営から身を退いて、牧羊や農場にまつわる教育・啓蒙活動に専念したい」と語る。

©Woodlyn Park, New Zealand

風変わりなショーを主催し、変わったホテルを作った変な人————この評価を「まさに望んでいたこと」と彼は喜ぶ。ウッドリンパークには世界初の宿泊可能なホビットハウスまである(2005年オープン。以前、ご紹介したホビットの映画撮影セットにもほど近い)のだから、たしかに変わっている。こんなふうに、普通と違うからこそ旅行ガイド『ロンリープラネット』で世界不思議ホテル10選の一つに選ばれ、ワールドワイド・ホスピタリティ・アワードのコンセプト賞も受賞したのだろう。

機会があれば、「一風変わった」ウッドリンパークで過ごしてみてはいかがだろう。乗り物好きならずとも、ワクワクする体験になるにちがいない。

©Woodlyn Park, New Zealand

出典/sources: Woodlyn Park, New Zealand

        Billy Black Woolman

文責/text:林 はる芽/Harume Hayashi

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林 はる芽

フリーランスの翻訳家・エディター 日本語・フランス語・英語、時々スペイン語・ドイツ語を翻訳。 最近のおもな訳書にフレデリック・マルテルの3著『超大国アメリカの文化力』(共監訳)(岩波書店2009)『メインストリーム』(同2012)『現地レポート 世界LGBT事情』(同2016)、Kenjiro Tamogami, et.al. Fragments & Whol (Editions L’Improviste 2013) [田母神顯二郎他『記憶と実存』(明治大学 2009)]など。

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