「神は水を造ったが、人はワインを作った」。
『レ・ミゼラブル』を書いた、ヴィクトル・ユーゴーの名言である。
作ったはいいが、ワインはとかく手のかかるもの。長期保存や熟成を考えると、温度、湿度、振動、日光などがワインの質に影響を与えないよう、さまざまな工夫がいる。一般家庭では、ワインにとって完璧な保存条件が揃っている空間はなかなかないかもしれない。
しかし、どんなコレクティブル(収集価値のあるもの)にも、それに見合った置き方や見せ方がある。そうしたこだわりが、時間をかけて作り上げたコレクションの価値を左右するとも言える。
スパイラル・セラーズは40年以上にわたり、こだわりのワインセラーを製造販売してきた英国企業。<ワインウォール>や<ワインキャビネット>のほか、ビスポーク(特注)のウォーク・イン・タイプの<ワインルーム>を世界中のワインコレクターに提供し続けている。特に創意溢れるのは、そのまま社名にもなっている螺旋状の<スパイラルセラー>だ。
スパイラルセラーは、コンクリートの一体構造の円筒を地中に埋めたワイン用貯蔵庫。省スペースでありながらプロレベルの収納性のセラーを実現することができ、何よりも住宅に“wow feature” (ワオ!と言いたくなるような視覚的インパクト)が加えられることが魅力だ。
最初から地下室や貯蔵庫がある必要はない。既存の住宅はもちろんのこと、新築、増築、リフォームの際に設置することもできる。というのも、スパイラルセラーは丸ごと鉄筋コンクリートで覆われ、独自の防水システムで守られているので特別な基礎工事を必要としないのだ。英国内であれば計画許可を申請する必要はないそう。仮に建物自体が登録建造物であった場合にはそれに対する同意が必要となるが、こういった手続きもすべて同社に任せることができる。
まずは、希望の場所に穴を掘削することから工事はスタート。そこにスチール製の型枠を入れ、防水加工したのちに、コンクリートを流し込み土台を形成する。その中にモジュール式の貯蔵棚を下から上へと螺旋状に連結していくことによって、そのまま螺旋階段ができあがっていく。
セラーに組み込まれるのは自然換気装置。冷たい空気は暖かい空気より重いので、セラーの下方へ流れることによって暖かい空気を逆に上へと押し出すという仕組みである。機械を使わないので、ランニングコストもかからない。
基本のセラーは、直径2.5メートル。深さは施主が決めるが、180センチの身長であれば最低でも2.5メートルの深さがないと頭がつかえる。壁面の収納ユニット一つにつき、ボルドー型のボトルなら27本、ブルゴーニュ型なら24本の収納が可能。2メートルの深さで計1130本、3メートルで計1900本のワインという計算だ。コレクションは大概増えていくものなので、最初からなるべく深いセラーを設置する方が後悔がない、というのが同社の経験上の結論。
十分なスペースがあれば、後年、価格が跳ね上がるであろうワインを先物買いするアン・プリムールや、同じ生産者のワインを年代順に追って試飲するバーティカル・テイスティングなど、ワインの楽しみ方も広がる。
スイッチ一つで開閉するセラーのドアは強化ガラス製で、その上を歩くことはもちろん可能。床と同じ木材、タイル、大理石などを用いて目立たないようにすることもできる。
ところで、日本の家屋にスパイラルセラーを設置したことはあるのだろうか? マーケティング責任者のフィオナ・ラブさんに聞いてみた。
「はい、あります。こうした場合には、組み立てユニットとマニュアルがキットになったセラーをお勧めしています。日本の建設業者が掘削と設置を請け負う形になりますが、全行程をわれわれのプロジェクト・マネージャーが管理します」。
そして、同社のもう一つの特徴がビスポークのワインルームを作ること。可能な限り、施主の思い——コレクションの方法、頻度、量、今後の計画など——に寄り添うかたちに設計されるルームは、どれも美しく、洗練されている。
「マグナムボトルを収納される方には大きなルームをご提案します。ワインを注ぐポーリングテーブルとグラス類をすべて部屋の中に入れたいとおっしゃるお客様もいます。グラスを洗うシンクをあつらえることも可能ですよ。葉巻の保存庫、ヒュミドールを備えるルームも人気です」とフィオナさん。
テーブルに、シンクに、ヒュミドール・・・こうなると、家の中にワインを中心とした趣味の部屋を一から作り上げるに等しい。フィオナさんは続ける。「最近では、ご家族の紋章をあしらったワインルームという特別注文をいただきました」。
「ワインは人生の物語をつくり、特別な出来事を祝い、友人や家族との集まりを彩ります。ワインセラーは単に保存のためではなく、目的に合ったワイン選びに必要なものです。でもワインをピークの状態で飲むことは実は難しいのです。ワインに関してあなたが真剣であるならば、一番いい保存方法に投資するべきです」。
フィオナさんの力強い言葉に心揺さぶられるコレクターの方もいらっしゃるのでは?
パーティーのホストとして、食事とのマリアージュを考えてベストな一本を選ぶ。スパイラルセラーの階段をタッタッタと駆け上がり、「今日はこれかな」。
・・・って、かっこいい。
妄想に留まりそうにない方は、是非スパイラルセラーズに一度ご連絡を。
写真/all sources and images courtesy of Spiral Cellars Ltd
取材・文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno